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旅は人を悪くする


地球だより

 異国では閑(ひま)ができると、大抵、歩き回る。田舎だと自然が満喫できるし、都会では表のショーウインドーでは見られない路地裏の真実に遭遇するチャンスでもある。

 トルコのイスタンブールで、ぶらりと散歩に出た。場所は新市街にあるタクシムゲジ公園近くだった。

 坂を上ろうとすると、丘から下ってきた靴磨き屋がブラシを落としたまま、通り過ぎた。「ドロップ ザ・ブラシ」と叫ぶと、ニコニコしながらこちらに小走りでやって来て、ブラシを拾った。

 そしてやにわに「お前は日本人か。いいやつだな。お礼に、靴を磨くから出せ」と言う。タダで磨こうというのをむげに断るのも悪いと思い、足を出した。

 結局、左右合計でも2分もかからない程度の靴磨きだった。こちらもタダというわけにはいかないだろうと思い、たまっているコインをごそっと「チップ」と言って渡した。

 すると意外や意外、「コインじゃなくて紙の札を出せ」という。トルコで一番安い札は5リラ(約125円)だから、それを出すと、もっと大きいのだと突然、態度が大きくなった。

 「冗談言うな。これで十分だろう」と言って5リラ札を突き付けて、さっさと立ち去った。

 情報通によると、5リラ、10リラ(約250円)はまだいい方で、信じられない高額を要求するケースも少なくないという。それを断ると、靴磨き仲間が取り囲み、結局、払わざるを得ない状況になることもままあるそうだ。

 面白かったのは、それから5分もしないうちに2人の靴磨き屋が同じ事を繰り返したことだ。いずれも、すれ違う際にストンとブラシを落とす。こちらは経験済みだ。無論、無視して通りすぎる。旅をするのも、人が悪くなるのを覚悟しないといけない。

(T)