遠い北朝鮮の春


地球だより

 日本人をはじめ外国からの観光客にも人気のソウル仁寺洞。先日、ここで北朝鮮から脱北した人たちの物語を紹介する展示会が行われた。陳列物の中心は2001年、家族と共に北京の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に駆け込み、その後、韓国亡命を果たしたチャン・キルス君が北朝鮮での過酷な日々を描いた数々の絵だった。

 主催したのは以前、小紙でも紹介したことがある韓国の人権活動家・文国韓氏。ビジネスで赴いた中国で偶然出会った脱北者たちの惨状に衝撃を受け、以来、脱北者の救出や北朝鮮民主化を求める運動などに携わってきた。02年、中国瀋陽の日本総領事館に駆け込み、日本でも大きな話題を呼んだあのハンミちゃん一家の脱北を支援したのも文氏だ。期間中、中学生になったハンミちゃんも来場し、メディアのインタビューに答えていた。

 今から10年以上も前の話で、目新しい物は何もない。正直に言えば「今さらこの話を持ち出しても…」という思いもよぎった。だが、文氏はそんな筆者の思いを見透かすかのように、こう言ってきた。

 「記者たちは決まって新しい事実がないか聞いてくるが、私は十数年前の出来事をあえてそのまま展示することにしている。これは過去の話ではなく、今もそっくり同じことが繰り返されているのだから」

 そういえば、最近話を聞いたある女性脱北者も、こちらに来る前、最高指導者・金正恩第1書記への期待が裏切られたと憤慨していた。「人気取りに夢中で、住民生活など顧みない」。独裁者の圧政にあえぐ北朝鮮住民に春はまだ遠い。

(U)