バチカンと「悪魔」の関係について


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「悪魔払いをするエクソシストを描いたスケッチ」(バチカン放送独語電子版から)

 バチカン法王庁聖職者省は3日、「国際エクソシスト協会」(AIE)をカトリック団体として公認すると発表した。AIEには30カ国から約250人のエクソシストが所属している。バチカン放送によると、AIEの立場はバチカンの公式団体ではなく、あくまでも信者たちの団体であり、教会の名で活動は行うことはできないという。AIEは1994年、ローマ司教区のエクソシスト Gabriele Amorth によって創設されたものだ。

 「悪魔祓い」といえば、少々カルト的なイメージが強いが、歴代のローマ法王の中には悪魔祓いができたエクソシストがいた。最近では今年4月27日、列聖したヨハネ・パウロ2世はエクソシストだった。また、ザンビア出身のエマニュエル・ミリンゴ大司教は世界基督教統一神霊協会(通称統一教会)の創設者文鮮明師の主礼で結婚したためバチカンから破門されたが、ヨハネ・パウロ2世が信頼していたエクソシストの一人だった。同大司教は多くの悩む信者たちの悪例払いをし、人気のあった聖職者だ。すなわち、エクソシストはバチカンにとって身近な存在なのだ。

 一方、信者たちの中にはエクソシストへの癒しの要望がここにきて急増している。データは少し古いが、イタリアで2011年、約50万人の国民がエクソシストの助けを求めたという。この数字は年々増加している。同国の著名な週刊誌「パノラマ」が同国カトリック系精神病学会の情報として報道したものだ。イタリア中・南部の国民がエクソシストに悪魔祓いを願うケースが多いという。イタリアで約300人のエクソシストが教会司教の要請を受けて悪魔祓いに従事しているというから驚きだ。

 悪魔祓いの需要が増えてきたということは、悪魔に憑依された信者や国民が増えてきたということになる。日本人の読者には「悪魔」といっても漫画チックな響きかもしれないが、実際存在する。ヨハネ・パウロ2世は悪魔について、「悪魔は擬人化した悪霊」と規定し、「悪魔の影響は今日でも見られるが、キリスト者は悪魔を恐れる必要はない。しかし、悪魔から完全に解放されるためには、時(最後の審判)の到来を待たなければならない」と述べている。

 「悪魔」は本当に存在するのだろうか。「神の存在」を問う人々は多いが、「悪魔の存在」について考える人は案外、少ない。聖書では悪魔(サタン)という言葉が約300回登場する。有名な個所としては、「悪魔はすでにシモンの子イスカリオテのユダの心に、イエスを裏切ろうとする思いを入れていた」(ヨハネによる福音書13章2節)がある。

 バチカン法王庁はエクソシストに癒しを依頼する前には精神科での治療を義務付けている。悪魔によるものか、精神病かの診断が重要だからだ。「悪魔が憑いている」と判断された場合だけ、患者やその家族が悪魔祓いをエクソシストに依頼できることになっている。
 バチカン法王庁は1999年、悪魔祓い(エクソシズム)の儀式(1614年)を修正し、新エクソシズム儀式を公表した。新儀式では、①医学や心理学の知識を決して除外してはならない、②霊に憑かれた人間が本当に病気ではないかをチェックする、③秘密を厳守する、④教区司教の許可を得る―など条件が列記されている。

 エクソシストについて公の場で語ることを控える傾向があったバチカンがAIEを公認した背景には、悪魔の存在とその活動を無視できなくなってきたこと、霊的癒しを求める信者が増えてきたこと、等があるからだろう。ちなみに、フランシスコ法王はその説教の中で「悪魔」という言葉を頻繁に語るローマ法王といわれている。

(ウィーン在住)