紙幣一新、偽造防止と経済活性化を


 2024年から紙幣が一新されることになった。令和へと改元され、続いて新しい紙幣が登場するのは、新時代の到来にふさわしい。偽造防止が第一の目的だが、景気浮揚も期待される。

世界最先端の技術を搭載

 偽造を防ぐため、海外では10年ごと紙幣が刷新されるケースが多い。世界で最も偽造されにくいとされる日本の紙幣だが、政府はこれまで約20年ごとに刷新してきた。04年に5千円札の顔が新渡戸稲造から樋口一葉、千円札が夏目漱石から野口英世に替わった時も、1万円札の福沢諭吉は替わらなかったが、偽造防止の「ホログラム」を入れるなどデザインが変わった。

 24年の刷新では「3Dホログラム」や透かして見ると浮かんでくる肖像画の背景のすき入れ模様を高精密なものにするなど、世界最先端の偽造防止技術を搭載する。特に1万円札は海外の高額紙幣と比べても流通頻度は高く偽造防止の高度化が求められる。実際の使用開始の5年も前に刷新を公表するのが偽造防止という点でどうなのかとの疑問も湧くが、それだけ防止技術に自信があると判断したい。

 紙幣刷新による経済効果については、国内総生産(GDP)を1・3兆円(0・2%)押し上げるという民間の試算もある。自動販売機や現金自動預払機(ATM)の改修は製造側にとっては大きな特需だ。また、タンス預金の取り崩しや百貨店の記念セールなどで経済活性化が期待される。

 反対に、ATMを改修しなければならない金融機関や小売業にはかなりの負担となる。駅の券売機なども改修が必要だ。これらの業界の負担軽減も政府は考慮すべきだろう。

 一方政府は、25年までに現金を使わないキャッシュレス決済の比率を4割にまで引き上げたいとしているが、これに対する効果は不透明だ。

 お札の「顔」となる人物の選定では、明治以降の人物で多くの国民に知られ、広く親しまれているという条件があった。1万円札の渋沢栄一は「日本資本主義の父」と呼ばれる実業家。尊攘派志士から徳川慶喜の家臣、大蔵官僚を経て、日本初の銀行「第一国立銀行(現みずほ銀行)」や東京ガスなど約500の企業の設立に関わった。

 5千円札の顔となった津田梅子は、6歳で岩倉使節団に同行して渡米し、米国で教育を受けて帰国後に「女子英学塾(現津田塾大学)」を創設。女子教育の先駆者として知られる。千円札の顔は「日本細菌学の父」北里柴三郎。高い致死率で恐れられた破傷風の血清療法を確立し、1901年の第1回ノーベル医学生理学賞の候補にもなった。

 麻生太郎財務相は「新たな産業の育成、女性の活躍、科学技術の発展など、現代にも通じる諸課題に尽力された」と述べている。若い人たちが3偉人に関心を持つきっかけとなることを望みたい。

詐欺への注意呼び掛けを

 新紙幣への切り替えを機に「古いお札は使えなくなる」などと言って、現金をだまし取る詐欺も出てくるとみられる。特にお年寄りがこうした手口の詐欺被害に遭わないよう、注意を呼び掛けることが必要だ。