日銀短観で景況大幅悪化でも楽観の日経、増税実施再考に触れぬ各紙


◆財政再建重視の読売

 新年度スタートの1日は、新元号が「令和」に決まったという明るいニュースとともに、「企業の景況感が大幅悪化」という芳しくない報道もあった。ここで取り上げるのは後者の、3月日銀短観(全国企業短期経済観測調査)についてである。

 各紙社説では、読売と毎日が1日付で消費増税まで半年に絡めたものを掲載。2日付はさすがに新元号一色かと思ったが朝日だけが通常枠で、残る日経、産経、東京、本紙が3日付で掲載した。

 短観の結果を含まない読売、毎日社説では、論調はやはり、「日本の財政状況は先進国で最悪だ。リーマン・ショック級の経済危機がない限り、消費税率を10%に引き上げるべき」(読売)である。

 「借金のツケを将来世代に先送りしないために、さらなる消費増税も避けて通れまい。今回の増税を出発点に、財政再建と社会保障制度の安定化を図りたい」(読売)というわけなのだが、これまで景気重視の論調が強かった読売は、今回は財政再建に重きを置いている。

 もちろん、増税による消費の落ち込みを下支えする軽減税率に触れ、先行き不透明感が広がる景気についても言及しているが、「政府は、経済対策の効果を見極めながら、状況によっては追加策を検討する必要がある」とするのみ。短観の結果を踏まえてもそうなのか聞きたいところである。

 毎日は消費税について、「利点は所得税や法人税と異なり、税収が景気左右されにくいことだ」などと説く。

 確かに、「高齢化社会を支える重要な安定財源」ではあるが、「借金つけ回しに歯止め」(毎日)となれば、消費税だけでなく法人税、所得税などを含めたトータルの税収で論じるべき問題である。

 まして、今回の消費増税は景気後退局面とも指摘される段階での実施となるだけに、景気の落ち込みに拍車を掛けることになりかねない。法人税や所得税の落ち込みが大きければ、逆にツケを大きくしかねない状況に陥るのだが、その点の言及はない。

◆企業頼みの増税対策

 短観を踏まえた2日付以降の社説では、朝日が「景気の息切れがはっきりしてきた」とし、「政府・日銀は予断を持たずに経済動向を見極め、
可能な対応策を熟慮すべきだ」とした。ただ、そう言いながら、同紙は「政府・日銀のマクロ経済政策は余力が乏しい」として挙げたのが、増税に伴う対策である。

 今回計画されているキャッシュレス決済でのポイント還元では、「仕組みが複雑で、消費底支えへの効果を十分に発揮できるか、懸念が残る」ため、「貴重な財源をいかに有効に利用できるか、改めて検討すべきだろう」ということなのだが、何とも寂しい限りである。あとは「企業の利益水準は引き続き高い。…好業績の企業は、積極的な賃上げを続けるべきだ」と企業頼みである。今年の春闘賃上げは、主要企業も中小も前年割れになってしまったのだが…。

 産経も同様で、「政府・日銀が適切に対応すべきはもちろんだ。同時に、内需を支える企業側の経営努力も重要である」として、短観で大企業製造業の今年度設備投資計画が6・2%増だった点を「予想外に高かった」と評価。「先行きが見通しにくい今こそ、企業の奮起に期待をつなぎたい」と企業への願望である。

◆増税再考求めた本紙

 日経は「過度な悲観に陥る状況ではない。機動的な投資や雇用改革を通じた企業経営の手腕が問われる局面だ」と相変わらず楽観的である。

 東京は「米中(貿易問題)の景気変調の影響が鮮明になった」とし、「現段階では米中交渉の行方が世界経済の鍵を握っているのは間違いない」として、6月の大阪G20(20カ国・地域首脳会合)で、議長国の日本が「米中の摩擦緩和に向け各国の協調意識を高めるよう最大限努めるべきだ」と強調した。朝日にも同じ指摘があるが、あとは大企業への賃上げ努力である。増税実施の再考を求めたのは本紙だけだった。

(床井明男)