日立英原発凍結、技術開発と人材確保に努めよ


 日立製作所が英原発建設計画の凍結を決めた。日立が事業継続の条件とする出資集めのめどが立たず、損失拡大を防ぐためにいったん計画を止める。

 存在感を高める中露

 日立は2012年に独電力会社から英原発事業会社を買収。英中西部アングルシー島に原発2基を建設する計画だった。経営リスクを軽減するため、大手電力会社や政府系金融機関から出資を募ったが、安全対策などで事業費が3兆円規模に膨らんだことから採算性への懸念が広がって出資集めは難航した。

 日立の東原敏昭社長は「英政府から(経済合理性に見合った)新たな提案がなければ、これ以上の投資はできない」と述べた。英政府との協議は継続するが、英原発事業の売却・完全撤退も視野に入れる。

 2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、日本国内では原発の建て替えや新増設の見通しが立たない状況が続いている。このため、日本は国策として原発輸出政策を官民一体で進めてきた。

 だが日立のほか、三菱重工業もトルコでの原発建設計画を断念する方向で検討中だ。日本の輸出案件は、事実上ゼロとなる公算が大きい。

 背景には、安全対策を重視する傾向が世界的に強まったことで建設費用が増大し、民間企業ではそのリスクに耐えられないようになったことがある。とはいえ、このままでは原子力の技術開発や人材の維持が一段と難しくなることは避けられない。人材が不足すれば、福島第1原発などの廃炉作業にも影響する恐れがある。

 日本とは対照的に、中国やロシアは原発輸出で存在感を高めている。両国とも国営企業が事業を担い、資金面では政府系金融機関が全面的に支援しているという。世界の原発市場を中露が占めることには安全保障上の懸念があるが、日本の原発産業が衰退すれば中国製の原発を輸入することにもなりかねない。

 中露との競争で優位に立つため、政府は米国との協力で、安価で安全性も高いとされる小型モジュール炉(SMR)などの新技術開発にも力を入れる方針だ。人材の確保に努めることも求められよう。

 そもそも本来であれば、海外輸出の前に国内で建て替えや新増設を進めなければならないはずだ。政府はエネルギー基本計画で、30年の電源構成で原発比率20~22%を目指すとしているが、現状では目標達成は難しいだろう。

 資源の乏しい日本にとって、エネルギー密度の高いウランを燃料とする原発の存在は極めて重要だ。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に基づき、50年までに温室効果ガスを80%削減するという日本の目標達成に向けても、二酸化炭素(CO2)を排出しない原発を一定程度維持することは欠かせない。

 建て替えの方針を明確に

 政府は原発を「重要なベースロード電源」と位置付けるのであれば、安全性が確認された原発の再稼働を進めるとともに建て替えや新増設の方針を明確に示す必要がある。

 技術や人材を国内でも活用しなければならない。