追加関税発動、互いに為にならない報復合戦


 トランプ米政権が中国から輸入する年500億㌦(約5・5兆円)相当のハイテク製品に25%の追加関税を課す制裁措置を発動した。これに対し、中国が直ちに同規模の米国産品に報復関税を実施し、制裁と報復の貿易戦争に発展している。

世界1位、2位の経済大国間の貿易戦争は、双方の為(ため)にならないばかりか、世界経済に深刻な影響を与えかねない。両国に経済大国としての自覚と自制を強く求めたい。

世界経済が失速の恐れ

 米中両国は6日に、第1弾として340億㌦相当の輸入品への追加関税をそれぞれ発動。トランプ大統領はまた、2週間以内に残る160億㌦の追加関税を課すと明言し、中国も即座にさらなる報復に動く構えだが、同大統領は対中制裁の対象を最大で4500億㌦に増やす可能性も示唆している。

 このままいけば、報復が報復を呼ぶ悪循環で、順調に拡大している世界経済が、保護主義の拡大、貿易の停滞を通じての成長の失速という深刻な事態に陥りかねない。

 報復関税の応酬は、何より自国経済の為にもならない。民間調査機関によると、今回の標的となった中国製品の85%が、米企業が販売する完成品に使われる機械部品で、関税負担が米企業に跳ね返る構図である。中国でも、報復対象とした米国産大豆の仕入れ価格上昇などの悪影響が見込まれる。

 トランプ政権が3月に実施した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限に対しては、中国以外にも欧州連合(EU)、カナダ、メキシコなどが報復措置を実施。EUから高関税を課された米二輪車大手のハーレーダビッドソンは、生産の一部を海外移転すると表明するなど、トランプ大統領が米国の製造業の復活を意図して導入した措置が逆の結果を招いているのである。

 今回の米国の追加関税発動はそもそも、トランプ政権が公約に掲げる貿易赤字の解消が大きな狙いである。“公正”な貿易を各国・地域に求め、最大の赤字相手国である中国には厳しい姿勢で臨んでいる。

 米国は中国について貿易不均衡だけでなく、米企業が持つ知的財産権への侵害も問題視している。中国が2015年に打ち出した「中国製造2025」である。これは中国政府による自国産業の高度化政策で、狙いはハイテク製品の国産化とも言われる。特に電気機器などで幅広く使用される集積回路の国産化は喫緊の課題で、国が補助金などで手厚く支援している。

 トランプ大統領が批判するのはこうした政策と共に、中国に進出した米企業への技術移転の強要問題である。これは米国だけでなく、日本などの企業でも以前から問題視されてきたもので、今回の制裁発動は米国にも一理ある。

WTO協定を踏まえよ

 ただ、問題への対処は一方的な制裁発動ではなく、世界貿易機関(WTO)協定に整合的であるべきである。また、日本やEUなどと共同して対処する上でも、他の制裁措置で同盟国をも対象にする愚は避けるべきで、政府はこの点も含め、米国に自制を強く促してほしい。