景況感悪化、景気下支えへ経済対策急げ


 日銀が発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、製造業、非製造業とも景況感が悪化し、企業の慎重姿勢が鮮明となった。

 中国経済が減速し、円高が進行して、旺盛だった外国人旅行者による消費にも陰りが見え始めた。今春闘の賃上げ率の鈍化もあり、景気変調への懸念が高まる。「アベノミクス」が目指した経済の好循環に要注意信号が灯(とも)る。

新興国経済減速が影響

 短観によると、企業の景況感は大企業製造業で2四半期ぶりに悪化。中国をはじめとする新興国経済の減速や円高を受け、鉄鋼や電気機械、自動車などの輸出関連を中心に幅広い業種で企業心理が冷え込んだ。

 大企業非製造業でも6四半期(1年半)ぶりに悪化。訪日外国人旅行者(インバウンド)による消費の伸びが鈍化したためである。昨年11月に起きたパリ同時多発テロなどの影響を受け、海外旅行需要が停滞したこともある。

 先行きに対しても企業は慎重である。3カ月後の見通しは、大企業製造業、大企業非製造業いずれも現状より悪化する予想となっている。

 唯一、良い数字に見えるのは設備投資計画で、大企業全産業で15年度は前年度比9・8%増と、3月調査としては2006年度(11・9%増)以来の高水準になった。だが、16年度計画は0・9%減となり、ここでも企業の慎重姿勢が示される結果になっている。

 海外環境、特に中国経済については、株安や不動産市況悪化の影響で個人消費が低迷しているほか、企業の過剰設備問題も深刻化し、好転はすぐには望めない。原油をはじめとする資源価格の低迷も続いている。

 14年4月の消費税増税以降、国内総生産(GDP)の6割弱を占める個人消費は低迷が続いている。円安で勢いのあったインバウンドによる消費にも陰りが出て、さらに円高が進むようだと、中国人観光客らの足が遠のいて「爆買い」にもブレーキがかかり、国内消費がさらに落ち込む恐れもある。

 短観で明らかになった企業心理の冷え込みは、既に今年の春闘の賃上げ率の鈍化という形に表れている。「アベノミクス」による経済の好循環の最後の砦とも言うべき賃上げの残念な結果に加え、今回の短観は好循環形成の原動力がいよいよ失われつつあることを示している。デフレ脱却を目指した安倍政権にとって懸念すべき事態である。

 安倍政権は16年度予算成立を受け、予算の前倒し執行と景気てこ入れに向けた経済対策の具体化を急いでいるが、当然である。官邸サイドからは最低でも5兆円規模との声も聞かれる。日銀の金融緩和策がほぼ限界に達し十分な効果が見込めない現状では、財政による実需としてまずは妥当なところか。

消費再増税は延期を

 安倍晋三首相は、17年4月に実施予定の消費再増税について「そのときの政治判断で決定すべきだ」と述べ、延期する可能性があることを示唆した。

 景気下支えへ経済対策を実施する以上、政策の整合性からも延期が望ましい。