悪用防止念頭に民泊の法整備を


 日本を訪れる外国人観光客が急増する中、民家の空き部屋などを宿泊用に貸し出す「民泊」にホテル不足を補う役割が期待されている。

 現行の旅館業法は自治体の許可なく営利目的で多数の客を宿泊させることを禁止している。このため、政府は民泊を段階的に解禁する方針だが、犯罪者による悪用防止なども念頭に置いた法整備が必要だ。

 テロの温床になる恐れも

 政府は、個人が小規模で行う民泊を今年中に認め、企業が営利目的で行う大規模な民泊については、より厳しい安全基準などを設けて2018年までに解禁する方針だ。

 昨年の訪日客数は2000万人近くに上るとみられる。JTBの予測によれば、今年は2350万人に達する。今年から東京都大田区などの国家戦略特区で民泊の利用が始まることも増加の要因と分析している。

 訪日客増加は安倍政権の成長戦略の一環だ。政府は20年に年間訪日客2000万人の目標を掲げているが、安倍晋三首相は「次なる目標は3000万人」と表明している。民泊は受け入れ促進の「切り札」と言える。

 だが、仲介サイトなどを通じて拡大している民泊はほとんど無許可だ。部屋の衛生や安全性が十分に確保されているか懸念される。さらに、民泊を利用した訪日客が夜中に騒いだり、ごみを分別せずに捨てたりして、近隣住民とトラブルになるケースも目立ち始めている。

 厚生労働省と観光庁は、家主に旅館業法の「簡易宿所」の営業許可を取得するよう促す案を示している。客室の面積基準などを緩和し、許可申請のハードルを下げる一方、宿泊者の本人確認や緊急時のトラブルに対応できる管理体制を許可の前提とするものだ。営業実態をきちんと把握する狙いがある。

 適切なルール作りが求められるのは、民泊がテロや犯罪の温床となる恐れがあるためだ。昨年11月のパリ同時テロの実行犯は襲撃前、身元申告を求められるホテルを避け、知人を介して一般のアパートに泊まった可能性があるという。

 ルールに不備があれば、テロリストだけでなく、振り込め詐欺組織のアジトや不法滞在の外国人の住み家として悪用されることも考えられる。こうした事態を防げるような法整備を進める必要がある。

 現在は世界的にテロの脅威が高まっている。国内では、今年5月には主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を控え、20年には東京五輪・パラリンピックも開催される。法整備とともに、警察による民泊の実態把握なども不可欠だ。

 和風旅館の情報提供を

 ホテル不足への対応には、民泊のほか和風旅館の活用も進めたい。東京都ではシティーホテルの客室稼働率(15年1~8月平均)が83%、大阪府で87%であるのに対し、旅館はそれぞれ63%、51%にとどまっている。

 大手の宿泊予約サイトはホテル情報が中心で、小さな旅館は掲載されていないことが多いため、外国人にはあまり知られていない。インターネットなどによる情報提供システムの構築が急がれる。

(1月13日付社説)