世界日報 Web版

米のINF離脱、中露の核脅威増に当然の対応


 トランプ米大統領が中距離核戦力(INF)全廃条約を離脱する方針を決め、ロシアに通告した。これに対し、中国、ロシア両国のみならず一部欧州諸国でも批判が出ている。

 これらの批判の背景には、国際社会で核兵器全廃に向けた動きが進展しているとの思い込みがある。だが、最近の中露や北朝鮮の核戦力の実情を無視した願望ばかりが先行している。

条約に縛られない中国

 ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)はロシアを訪れ、ラブロフ外相やパトルシェフ安全保障会議書記と会談し、米国のINF全廃条約離脱の意向を直接伝達した。

 この条約は核兵器全廃への一里塚として合意したのではなく、1970年代半ば以降のソ連と米国・主要西欧諸国の核兵器をめぐるせめぎ合いの結果誕生したものだ。ソ連は当時、中距離弾道ミサイルSS20の開発に成功し、欧州東部地区に配備を開始した。

 これに対し、西欧諸国は大きな恐怖心を抱いた。SS20は西欧諸国には届くが米国には達しない新ジャンルの核兵器だったからだ。

 西欧諸国が懸念したのは、米ソの核バランスがソ連優位になりつつある中、ソ連がこの核ミサイルを西欧諸国に使用した場合、米国が戦略核で対応してくれない事態であった。米本土への犠牲を覚悟しなければ、西欧諸国を助けるためだけに戦略核を使用しにくいからだ。

 これに対応するため、米国は極めて命中精度の高い中距離弾道ミサイルのパーシング2を西ドイツ、英国、イタリアの3国に配備した。この結果、今度はソ連側が恐怖心を抱いた。米本土から飛来する大陸間弾道ミサイル(ICBM)と違って、短時間で自国の目標に到達するからだ。

 この状況下で米ソの妥協が成立し、条約を締結したわけだ。ソ連崩壊後、領土が縮小し国力も弱まってロシアとなったが、軍事ドクトリンでは通常戦力の弱体化を踏まえ、必要になれば非核保有国に核兵器を使用することもあり得るとの方針を打ち出して現在に至っている。またロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合の際、プーチン大統領は核戦力を使用できる臨戦態勢に入る用意もあったとのちに証言している。

 一方、プーチン氏は2007年に、INF全廃条約に拘束されない中国を念頭に「米露以外の国々に広げない限り、条約にとどまるのは難しい」との意向を表明。この考えを踏まえてか、ロシアは長い航続距離の巡航ミサイルの開発に成功し、配備を開始している。

 この条約に縛られない中国は、先述のパーシング2の終末誘導技術を盗取し、米空母向けの対艦弾道ミサイル東風21Dを配備している。さらに、グアムの米軍基地を射程に収める中長距離弾道ミサイル東風26を実戦配備した。

安易な「歴史に逆行」批判

 北朝鮮が既配備のミサイルも中距離弾道弾であり、わが国は射程内にある。「歴史に逆行する愚行」などと、のんきなことを言ってはいられない事態だとの自覚が必要だ。