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ブラジル政局、政争に明け暮れる余裕はない


 ブラジルの連邦下院議会が、同国初の女性大統領であるルセフ大統領に対する弾劾を決議した。弾劾請求は野党が優勢な上院でも可決される見通しで、5月にも大統領の職務が停止される可能性が高い。

 8月に開幕を控えるリオデジャネイロ五輪を前に、ブラジル政治の混迷は一段と深まり、「大統領不在の中での五輪開催」という異常事態が現実味を帯びてきたことは誠に遺憾だ。ブラジル政府はまさに崖っぷちに立たされたと言えよう。

下院が大統領弾劾を決議

 弾劾請求の直接の理由は、2014年の大統領選前の予算の「不正執行」の疑いだという。国家会計を粉飾するために年金の給付などを国営銀行に肩代わりさせたというのだ。

 ただ弾劾の背景には、政治に対する国民の不満の高まりがあるとみてよい。

 ルセフ大統領は、経済発展を実現し、貧富の格差是正を目指した政策で国民の高い人気を得たルラ前大統領の後任として11年に就任した。

 支持を失うに至った第一の理由は経済の低迷だ。15年の国内総生産(GDP)成長率は6年ぶりのマイナスを記録し、今年もマイナス成長が確実視されている。

 第二の理由は汚職の蔓延だ。国営石油会社をめぐる大規模な汚職事件で、与党議員や元閣僚を含む100人以上が逮捕された。賄賂総額は64億レアル(約2000億円)に上るとされ、国民の政治不信を決定的にした。3月に全国で行われたデモの参加者が計360万人に上ったとされるのは、国民の不満の高まりを示すものだ。

 上院の弾劾手続きの審議は5月中旬になると予想されるが、過半数が賛成すればルセフ大統領は最長180日間の停職となる。さらに弾劾裁判で3分の2が賛成すれば失職し、テメル副大統領が大統領に昇格する。

 ブラジル政界の混迷で最大の被害を被るのはリオ五輪だ。ルセフ大統領が職務停止ともなれば、リオ五輪は「国家元首不在での開催」という異常事態となる。われわれが望みたいのは、ブラジル政府が国内政治の安定に全力投球し、五輪が平穏裡に開かれることだ。政争に明け暮れる余裕はない。

 いまブラジルで緊急に必要なのは経済の再建だ。ルラ前大統領が高度経済成長を達成し、五輪招致を勝ち取ったのは、資源価格の上昇と中国向け輸出が追い風となったためだった。

 だが、中国の景気減速と資源安でブラジル経済は失速した。通貨レアルの下落やインフレの進行、失業率の上昇は、ルセフ政権が世界経済の変化に効果的に対応できなくなっていることを示している。

リオ五輪へ早期の安定を

 ルセフ大統領は弾劾決議に対して、これを否決するために全力で戦うと宣言している。ブラジルでは弾劾賛成派と反対派がそれぞれ全国でデモを展開し、国内は分裂状態となっている。ルセフ大統領は五輪の聖火採火式も欠席し、対応に当たっているが、五輪関係者の懸念は高まるばかりだ。開催国として、一日も早く国内を安定させることを求めたい。