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否定される信仰の自由 訴訟で異論を封じ込め


アメリカLGBT事情(6)

同性婚のフラワーアレンジメントを断ったことが差別と断定されたバロネル・スタッツマンさん(自由防衛同盟提供)

 8年に及ぶ戦いが終わった。77歳の「花屋のおばあちゃん」にとって、あまりに残酷な結末となった。

 米西部ワシントン州で花屋を営んでいたバロネル・スタッツマンさんが突如、泥沼の裁判に巻き込まれたのは2013年のことだ。結婚は男女のものと信じる敬虔(けいけん)なキリスト教徒として、ゲイカップルの結婚式のフラワーアレンジメントを断ったところ、同性愛者を差別したと訴えられたのだ。

 以来、スタッツマンさんは信仰・表現の自由を守るために上告を続けてきたが、今年7月に連邦最高裁が訴えを却下し、敗訴が確定した。スタッツマンさんは店を従業員に譲って花屋を辞めると発表した。

 スタッツマンさんは依頼してきたゲイの男性を傷つけないように、相手の手を握って断る理由を丁寧に説明するとともに、代わりに引き受けてくれる花屋を3軒紹介。最後はハグして別れた。このやりとりが「差別」と断罪されるのは、あまりに理不尽である。

 「拡大する不寛容な風潮が私たち全員にもたらす危険性にいくらかの注意を引くのに、私の裁判が役立ったことを願っている」

 スタッツマンさんは法廷闘争を終えることを発表した声明でこう語った。これまで過酷な裁判に耐えてきたのは、自分が圧力に屈すれば、同様の境遇に直面する人々に悪しき前例を残すことになると思ったからだ。それだけに、敗訴は無念に違いない。

 米国では近年、スタッツマンさんのようにキリスト教徒の個人事業主が社会的制裁を受ける事例が相次ぎ、「宗教迫害」とも呼べる状況が生まれている。信仰の自由を建国の理念とする米国としては、信じがたい事態である。

 西部コロラド州のケーキ職人ジャック・フィリップスさんも、宗教迫害の標的となっているキリスト教徒の一人だ。

 フィリップスさんはゲイカップルのウェディングケーキ作りを断ったことが州当局から差別と断定されたが、18年に連邦最高裁で勝訴を勝ち取り、信仰・表現の自由は守られたかのように見えた。だが、フィリップスさんは再び泥沼の裁判に引き戻される。今度は性転換を祝うトランスジェンダーケーキの製作を断ったことで訴えられたのだ。

 依頼されたのは、外側が青色、内側がピンク色という、体は男だが心は女であることを象徴するケーキだった。依頼主はトランス女性の弁護士で、しかもその電話をかけてきたのは、連邦最高裁がフィリップスさんのウェディングケーキ裁判を審理すると発表したまさにその日だった。

 この弁護士にはフィリップスさんを追い込む悪意があることは明らかであるにもかかわらず、州地裁は6月、フィリップスさんが差別を禁じた州法に違反したと断定した。フィリップスさんは上告しているが、最終的に再び連邦最高裁まで行く可能性がある。

 米国では、リベラルな価値観に反する言動をした人物を社会的に抹殺する「キャンセル・カルチャー」が吹き荒れているが、性的指向・性自認を理由とする差別を禁じた法律が左翼活動家によってキャンセル・カルチャーの武器として利用されている。日本でもそうした法律が成立すれば、異なる見解を持つ個人や事業者を狙い撃ちにした訴訟が乱発することは十分考えられる。

 スタッツマンさんとフィリップスさんの代理人を務める保守系法曹団体「自由防衛同盟」のクリステン・ワゴナー弁護士は「今日のフィリップさんは明日のあなただ」と警告する。全ての一般市民が標的になる可能性がある、という意味だ。日本人はこの言葉を以下のように置き換えて深刻に受け止めるべきだろう。

 「今日の米国は明日の日本だ」――と。

(編集委員・早川俊行)


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