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バイデン大統領就任、米国と世界の命運を左右


 新型コロナウイルス禍、極度の政治的分断、中国の覇権の野望…。米国の大統領は、誰もが大きな重責を背負ってその座に就く。だが、近代の米政治史の中で、ジョー・バイデン氏以上に深刻かつ重大な課題に直面する中で就任した大統領はいないだろう。

 バイデン氏は就任演説で「結束」という言葉を11回も使った。イデオロギー色を極力排し、格調高い表現で国民融和を訴えたことは評価できる。ただ、「言葉より多くのものが必要」と述べた通り、自ら超党派政治の範を示さなければ、空虚なレトリックと受け止められてしまうだろう。

 バイデン氏は、分断克服には「わずかな寛容さと謙虚さを示す」ことが必要だと主張した。だが、民主党がトランプ前大統領に対し、わずかでも寛容な姿勢を示したことがあっただろうか。

 大手ソーシャルメディアが相次いでトランプ氏のアカウントを停止したように、リベラル勢力はトランプ氏と同氏支持者を社会から「パージ(追放)」する動きを強めている。異論を封殺する危険なこの動きをバイデン氏が拒否しなければ、国民融和は遠のくばかりである。

 結束を実現するには、バイデン氏が党内で影響力を増す急進左派と距離を置くことが不可欠だ。だが、民主党が下院だけでなく上院でも多数派の座を握り、共和党に配慮する必要性が低下したことで、急進左派に引きずられる形でリベラルな政策を推し進める可能性の方が高い。

 就任演説は外交政策についてほとんど触れていないが、「同盟を修復し、もう一度世界に関与する」という基本路線は示した。これはトランプ氏の「米国第一」から多国間主義に回帰することを示したものだ。

 トランプ氏が対中政策を強硬路線に転換したことは歴史的業績である一方、米単独で対峙(たいじ)していたことが弱みだった。バイデン政権に期待されるのは、同盟国と歩調を合わせて対中圧力を強化していくことだ。

 ただ、バイデン政権は中国と全面対決する「新冷戦」は望んでいないとされる。中国が台湾問題でバイデン政権の出方を試してきた時、米国が断固とした対応を取らなければ、「台湾軍事侵攻が一気に現実味を増す」(香田洋二・元自衛艦隊司令官)恐れがある。

 バイデン氏の一挙手一投足が、米国と東アジアを含む世界の命運を握っていると言って過言ではない。

(編集委員・早川俊行)