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ウズベクが積極関与 ーアフガン情勢


中央アジアから見る アフガン情勢(下)

中央アジアコーカサス研究所長 田中哲二

 ウズベキスタンは、2016年ごろからアフガンに影響力のある中国・ロシア・インド・パキスタン、それにアフガンと国境を接するタジキスタン、トルクメニスタンなどと共に、米軍の撤退を織り込んだ上でタリバンとの接触を始めていた。

早期安定で南方ルート確保

 アフガン人口の約50%は中央アジア系諸民族だが、北アフガンにタジク人(タジク本国の2倍の人口)に次ぐ同族が住むウズベクはアフガン内に多様なルートを持つ。ミルジヨエフ大統領の近隣友好外交によりタジクとの関係も急速に改善しており、最近では中立的な立場を取りやすくなっている。

テルメズを訪れウズベク側地方政府との会談に臨むアフガニスタン暫定政権の副首相級を団長とする貿易投資実務代表団(左)=10月16日

テルメズを訪れウズベク側地方政府との会談に臨むアフガニスタン暫定政権の副首相級を団長とする貿易投資実務代表団(左)=10月16日

 そこで、ウズベキスタンは、タシケントで二つの大きなアフガン問題に関する国際上級者会合(2018年3月の「和平・安全保障・地域協力」と7月の「中央アジア・南アジア間の相互連携性について―その可能性と挑戦」)を主催し、アフガンのガニ大統領(当時)を招聘(しょうへい)して議論する場所を提供した。

 9月にタジキスタンの首都ドゥシャンベで開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議や第76回国連総会では、ミルジヨエフ大統領が「アフガン情勢の早期安定化の重要性と協力体制の確立」を提起し続けるなど、アフガン問題の解決に積極的なイニシアチブを取ってきた。

 直近では、ウズベク政府はタリバン政権の承認を前提に、世界銀行と米国が提案した「前アフガン政権の銀行預金の凍結」を解除するよう国際社会に訴えている。また10月8日にはカミロフ外相がカブールを訪れ、暫定政権のトップ次席との間で鉄道建設(マザリシャリフ―カブール―ぺシャワール間)と送電線網整備の推進について、早急にこれらの工事の起点となるテルメズで高級実務者会議を開催することで合意した。

 ウズベキスタンや中央アジア諸国にとって、アフガン問題の解決と安定化は、現実的な利益をもたらすとの期待値も高い。海への出口の確保と広大な印・パキ・南アジア市場へのアクセスが確保されるからだ。

 特にウズベキスタンにとってはウズベク南部のテルメズとアフガンのマザリシャリフを結ぶ鉄道を、カブール経由パキスタンのペシャワールまで延ばせばパキスタン鉄道に接続し、カラチ港ないしグワダルまで24時間以内で結ぶ可能性が出てくる。二重内陸国という地政学的ハンディを大きく緩和できるとの期待がある。さらに、アフガン情勢の安定は、20年来の構想であるTAPIプロジェクト(トルクメン産、ウズベク産の天然ガスをアフガニスタン、パキスタン、インドに輸送するパイプライン構想)を再検討する機会が浮上してくる可能性もある。

 タリバン政権のリスクについては、ウズベクの外交官・研究者は、タリバン政権は当面は自国領土確保以外に興味を持つ余裕はなく、対外的な軍事的脅威になる可能性は低いとみている。ただ、経済的混乱の続くアフガンが「イスラム国」(IS)や「ウズベク・イスラム運動」などテロ組織の隠れ家・温床となり、この勢力が中央アジアに浸透してくること、外貨の不足しているタリバン政権が、麻薬の増産を黙認ないし奨励しその密輸ルートが中央アジアで拡大することには大きな懸念を持っている。

 タシケントの地域戦略研究所の副所長はアフガン問題解決のために日本の取り得る道、日本に期待することとして①アフガン国内の失業救済と雇用創出に対する貢献②各種鉄道建設などインフラ整備への支援③中村哲氏の貢献を無にしないためにも医療・教育援助の継続・強化――を指摘していた。

底流する「バクトリア地域主義」

 米国の後に中国がアフガンに軍事介入する可能性について、ウズベクの国際政治の専門家は、「かつてのソ連、最近の米国の二の舞いを演じる可能性は低い。中国は多民族で宗教の影響力の強い地域へのコミットについては歴史的にソ連や米国より賢い」としている。

 可能性があるのは、過剰気味となっている「新疆建設兵団」に、中央アジア人に近いウイグル族を大量投入して、アフガニスタンの農業開発と基礎的な社会インフラ建設を請け負うことである。

 ただ、これは東ウクライナで試み、プーチン露大統領の反対にあって挫折している。現状では、このルートでイスラム過激派の運動が新疆ウイグル自治区に逆流することを警戒する可能性の方が高い。また中国が、アフガンと国境を接するパミール高原のワハン回廊沿いに人民解放軍の正規軍を投入するようなことが起これば、ワハン回廊と接するタジクに駐在するCIS(独立国家共同体)防衛軍であるロシア軍が出動する可能性が高くなる。

 歴史的・地政学的にヒンズークシ山脈とアムダリア川に挟まれた地域はバクトリアと呼ばれている。現在の北アフガニスタン、南トルクメニスタン、南ウズベキスタン、タジキスタンの一帯である。紀元前3世紀ごろから、グレコ・バクトリア、クシャーン朝等の王朝が興隆し、後にエフタルや突厥、イスラム系王朝の支配も受けた。

 タリバンによって破壊されたバーミアンの大仏石窟はバクトリア圏の西端だが、クシャーン朝で栄えた仏教寺院の遺跡は北アフガニスタンと南ウズベキスタンに集中している。

 テルメズで歴史学者や考古学者と議論をしていると、次のような見方に出合うことが少なくない。現在の中央アジアとアフガニスタンの国境は、たかだか19世紀から20世紀にかけて英・露間で争われた「グレートゲーム」の結果を共産主義の強権統治が固定化してしまった結果生じた人為的なものにすぎず、潜在意識としての歴史的・文化的帰属意識としてはバクトリア地域主義や、その北のソグディアナ(アムダリアとシルダリアの間とタジキスタン)地域主義の方がはるかに影響が大きい、というものである。

 因(ちな)みに第76回国連総会でミルジヨエフ大統領は「アフガンは切り離すことのできない中央アジアの一部であり、中央アジアはアフガンの問題を主体的に解決しなければならない」と述べている。同大統領もカリモフ前大統領もバクトリア域とソグディアナ地域が交差するあたりの出身である。

 汎西アジア主義とでもいうべき立場から見れば、ソ連と米国という2大軍事大国の進駐を単独で排除したアフガン人は、紀元前4世紀に天山山麓でマケドニア・アレクサンダー大王軍を押し戻したスキタイ・サカ族やスピタメネス一族や、「タラス川の戦い」(751年)で唐の大軍を破ったペルシャ族等に匹敵する「英雄的民族」と呼びうるものであり、現在の中央アジア諸族が連帯意識をもって中央アジア諸族を含むアフガン人の苦境脱出を支援するのは当然――という見方をする者もいる。

 たなか・てつじ 1942年埼玉県生まれ。67年東京外国語大学卒・日銀入行。93年日銀参事からIMF・日銀派遣でキルギス中央銀行最高顧問に就任、後にキルギス大統領顧問を務める。現在、中国研究所会長、タシケント国立経済大学名誉教授。著書に『キルギス大統領顧問日記』など。


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