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イスラエル 砂漠の中、奇跡の農業立国


水技術で世界最先端
海水淡水化・アプリで灌漑操作

ソレク海水淡水化プラント(地図)

ソレク海水淡水化プラント(地図)

 イスラエルは砂漠地帯に位置するにもかかわらず、食料自給率93%を誇る農業立国である。その秘密は、排水の再利用技術と特殊な灌漑方法にある。

 イスラエル最大の淡水源であるガリラヤ湖が、水分を汲(く)み上げすぎて2度目の危険水位まで落ち込んだ2007年から、イスラエルは本格的に排水の再利用と節水に取り組んだ。同年、低流量のトイレやシャワーヘッドが国全体に設置され、国営水道局は革新的な排水処理システムを実現した。そのシステムにより、排水の86%が再生水として使われるようになった。

ソレク海水淡水化プラント

ソレク海水淡水化プラント

 この再生水は、農業用水として水耕栽培や点滴灌漑などにも利用されている。イスラエルの農業共同体「キブツ」が開発した点滴灌漑とは、人間が受ける点滴と同じように、植物にもチューブを通して1滴ずつ効率よく水を与える栽培方法である。世界最先端の技術によって、全てコンピューター管理によるシステム化が実現した。

 北部キブツ・マサリクで農業の水管理に従事するオメル・ネタネル氏によると、水量を調節し直接植物の根元に向けたり、水を撒く時間帯や、液肥を水に混合する割合なども無線で操作でき、近年は携帯のアプリからでも全ての操作が可能だという。広大な農地では乾季にスプリンクラーを使用して水を撒き、狭い農地や町中の花壇などは地面に等間隔で敷かれたチューブからピンポイントで水が注がれているという。

農地にある再生水パイプ(紫色)に繋がる液肥混入制御装置(青色)と灌漑無線設備

農地にある再生水パイプ(紫色)に繋がる液肥混入制御装置(青色)と灌漑無線設備

 一方で、イスラエルは00年から、生活用水の確保のため海水淡水化プラント建設を計画し、着手していた。海水淡水化はこれまで、高コストの技術とみなされてきたが、従来の蒸発方式ではなく逆浸透膜方式により、淡水を低コストで生み出すことに成功した。

 2005年に南部アシュケロンに建設されたのを皮切りに、これまで5基の海水淡水化プラントが民間企業によって各地に建設、運営されている。現在は、5基全体で、1年間に約6億立方㍍の生活用水を生産し、国内の水消費量の70%近くを担っている。

豊富に売られているイスラエルの国産野菜=ハイファのタルピヨット市場

豊富に売られているイスラエルの国産野菜=ハイファのタルピヨット市場

 2013年に商業都市テルアビブ南方のソレクに建設されたプラントは、世界最大規模の逆浸透膜方式海水淡水化施設である。数種類の異なる膜を通過してろ過された淡水は、低温処理などを施した後、殺菌されている。また海水から製造された淡水は、味が不味(まず)いという難点があるため、飲料水はカルシウムなどのミネラル分を添加するなどして味を調節した後に供給されている。

北部ハデラの海水淡水化施設内に設置されている逆浸透膜装置(ソフィア・シニコブ氏提供)

北部ハデラの海水淡水化施設内に設置されている逆浸透膜装置(ソフィア・シニコブ氏提供)

 イスラエル経済省によれば、さらに淡水生産能力2億立方㍍のソレク第2プラントと、1億立方㍍以上の生産能力を持つ西ガリラヤ地域のプラントが完成すると、計7基で年間の都市および工業用水の消費量の約9割も供給できるようになるという。

 また、国内のみならずイスラエルの150社を超える企業が世界中に年間20億㌦の水関連技術を輸出している。イスラエルで2年ごとに開催される水技術国際会議(WATEC)イスラエル会議では、世界約90カ国から集まった水関連のエキスパートが水の最先端技術を学ぶために参加している。

(エルサレム=森田陽子、写真・森田貴裕)