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【社説】カザフスタン 中露の影響力強化を懸念


9日、ロシア国防省が公開した、モスクワ近郊イワノボの基地からカザフへ向かうロシア軍の写真(AFP時事)

 中央アジアのカザフスタンで燃料価格高騰に端を発した反政府デモが全国に広がり、武力鎮圧で多くの死者が出た。

 カザフのトカエフ大統領はデモ隊を「テロリスト」と決め付け、治安当局や軍に警告なしの射殺を認めた。こうした弾圧は断じて容認できない。

反政府デモを武力鎮圧

 カザフは豊富な天然資源を武器に中央アジア有数の経済力を誇ってきたが、国内では貧富の差が拡大。ソ連時代からの実力者ナザルバエフ前大統領が30年近く強権的な統治を続け、2019年の辞任後も影響力を維持していることに国民の不満が鬱積(うっせき)していた。

 今回のデモを受けてナザルバエフ氏は失脚し、国家保安委員会(KNB)のマシモフ前議長が国家反逆容疑で拘束された。マシモフ氏は首相や大統領府長官などを務めた大物でナザルバエフ氏に近かったとされ、後継候補として名前が挙がったこともあった。混乱の背景には、トカエフ氏とナザルバエフ氏との権力闘争があったとの見方も出ている。

 しかし、国民がその巻き添えになったのであれば看過できない。デモによる混乱で、少なくとも164人が死亡し、約1万人が拘束されたという。

 一方、ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」は、トカエフ氏の要請に応じて平和維持部隊を派遣。ロシアのプーチン大統領はこのところ、北大西洋条約機構(NATO)拡大への非難を強め、旧ソ連圏での影響力を死守する姿勢を鮮明にしている。部隊を派遣したのも抗議行動による政権転覆を防ぐためだろう。

 ロシアと中国に挟まれた地政学的な要衝でもあるカザフは、対露関係を重視しつつ、資源国として欧米とも一定の関係を保ってきた。日本は04年8月、当時の川口順子外相がカザフなど中央アジア5カ国との対話と協力の枠組み「中央アジアプラス日本対話」を設置。15年10月には安倍晋三首相(当時)がモンゴルと5カ国を歴訪するなど、地域の安定と発展のために力を注いできた。

 デモの武力鎮圧に対して欧米が批判を強めれば、カザフが中国やロシアを中心とする権威主義国家の陣営に一段と傾くことが懸念される。トカエフ氏はプーチン氏に「特別な感謝」を示し、米国などが中国の人権問題を理由に政府関係者を派遣しない「外交ボイコット」を表明した来月の北京冬季五輪の開会式にも出席する見通しだ。

 中国はカザフを巨大経済圏構想「一帯一路」のルートとして重視している。中国の習近平国家主席はデモの武力鎮圧について「強力な措置を断固として講じて迅速に事態を収め、国家や国民に対して責任ある立場を体現した」と支持を表明した。

改革促す戦略的対応を

 自由や人権などの普遍的価値を保障する日本としては、デモの武力鎮圧を容認できないのは当然だ。

 ただ批判一辺倒では、カザフを中露の側に追いやるだけである。これまで培ってきたカザフとの関係を生かし、改革を促していく戦略的な対応が求められよう。