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英EU合意 脱グローバルへの影響注視を


 英国とEU(欧州連合)が自由貿易協定(FTA)締結で合意し、「合意なき離脱」という最悪の事態は回避された。英国のEU離脱が今後、英国経済、EU統合、さらには脱グローバル化の流れにどう影響するかを注視していく必要がある。

大幅譲歩を迫られた英国

 今年1月に英国が正式にEUを離脱し、現在は劇的な変化を避けるための移行期間にあったが、今後の英EU関係を定めるFTA交渉は難航してきた。英国の主権を回復することを国民にアピールする一方、FTA締結による利益は確保したいというジョンソン英首相に対し、英国にいいとこ取りを許せば他の加盟国の離脱の動きを起こしかねないとするEUの懸念があったからだ。

 最後までもめたのが漁業権問題だった。経済規模は金融サービスの169分の1しかない漁業だが、ジョンソン首相が主権回復のシンボルとしていたためだ。英側は当初、英海域で操業するEU漁業者の漁獲量を80%減らすよう求めていたが、5年半かけて25%減らし、その後は毎年協議することで合意した。

 政府補助金や雇用制度、環境規制など産業政策に関して、EU側は公正な競争のためとしてEUルールに準拠することを求めたが、自動的準拠は見送りとなり、英国が一定の譲歩を勝ち取った形となった。ただ「共通の高い基準」を保つこと、問題が生じた場合に専門家の委員会を設置することなど、EUが関与する余地が残された。

 ジョンソン首相は、しばしば「合意なき離脱も辞さない」と発言してきたが、これが一種のパフォーマンスであることは明らかだった。合意なき離脱となり、関税が発生すれば、貿易額の半分をEU加盟国が占める英国はEU以上にダメージを受けるからだ。結果的には英側がかなり譲歩した形となった。

 FTA締結で関税ゼロの貿易が続くことになり、英産業界からは歓迎の声が上がっている。英国内での自動車生産は、日産自動車やトヨタ自動車など日本勢が生産台数の半分を占めている。日産は合意を歓迎し、引き続き英国での生産を続けていくと発表した。

 ただ、英国はEUの単一市場から出ることによって「人、モノ、サービスの自由な移動」から外れる。関税ゼロは維持されるが、申告書類の提出など税関手続き業務が必要となる。人の移動では、東欧からの労働移民流入を英国は問題にしてきた。今後は年収や学歴によるポイント制で流入労働者を選別する制度を導入する。

 単一市場から外れることによる英国経済への影響は今後、じわじわと出てくることが予想される。この点も、脱グローバル化の試行錯誤のモデルケースとして注視したい。

「主権回復」の流れ続く

 経済的にはマイナス面の多いEU離脱を英国民が選んだ理由は「主権の回復」だった。それほど、主権や国家の自主性は譲れないものである。一方でスコットランドでの独立運動の再燃も予想される。主権や民族のアイデンティティーの尊重が基本的な欲求として、国家や世界を動かす流れは続くと思われる。