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【中華民国双十節】コロナ禍でも深まる日台の絆


ワクチン提供で交流進む
ネット上にあふれた「感謝日本」

6月4日、日本のワクチン支援に謝意を表す台湾の蔡英文総統(総統府提供・時事)

6月4日、日本のワクチン支援に謝意を表す台湾の蔡英文総統(総統府提供・時事)

 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、台湾は双十節を迎えた。封じ込め政策は奏功し、悩みの種だったワクチンも日本から複数回提供を受けた。台湾のネット上には「感謝日本」の文字があふれ、返礼として台湾から医療機器や大量のマスクを日本に寄贈。コロナ禍にあっても両国の絆は深まっている。
(台北・早川友久)

 8月25日、ニュースの見出しに「嘉玲」の文字が躍った。5月中旬に新型コロナウイルスの市中感染が拡大し始めてから3カ月余り、台湾はついに再び「感染者ゼロ」の日を迎えた。「嘉玲」とは、台湾でも人気を博した香港の有名女優、劉嘉玲(カリーナ・ラウ)を連想させる「加零(増加ゼロ)」の発音と同じため、韻を踏む表現が好まれる台湾社会で自然発生的に使われ始めたものだ。

 5月までの1年余り、マスク着用や出入国のハードルが上がったことを除けば、台湾社会はほぼコロナ以前と同じ日常生活を取り戻していた。しかし、感染力の強い変異株の出現と、隔離政策の緩みによって水際を破られたことで瞬く間に感染が拡大し、5月下旬には連日600人を超える感染者数が発表された。

 衝撃を受ける社会に追い打ちを掛けたのが、確保されていたワクチン量の少なさだった。当時の発表では、2350万人の人口のうちワクチン接種済みの割合はわずかに1パーセントで、医療関係者など最前線に従事する人たちに限られていた。政府は急遽(きゅうきょ)ワクチンの確保に動いたものの、蔡英文総統が「中国の介入で今も契約できていない」と明言したように、実際の輸入までの道は険しいと思われた。

7月15日、台湾・桃園空港で「心より感謝申し上げます」と日本への謝意が記されたプラカードを手に、新型コロナウイルスワクチンを載せた日航機を出迎えた陳時中・衛生福利部長(中央)ら(衛生福利部提供・時事)

7月15日、台湾・桃園空港で「心より感謝申し上げます」と日本への謝意が記されたプラカードを手に、新型コロナウイルスワクチンを載せた日航機を出迎えた陳時中・衛生福利部長(中央)ら(衛生福利部提供・時事)

 連日激増していく感染者に加え、ワクチンの絶対的な不足により、台湾社会は暗く重苦しい雰囲気に包まれた。レストランやカフェの店内利用が禁止される一方、街から人影がなくなるほど自発的に外出が控えられたが、社会に募る不安は増すばかりだった。

 そんな時「日本が台湾へワクチン寄贈か?」との報道が流れた。しかし、それが本当に実現するのかどうかも、いつ届くのかも未知数で、政府高官が「早ければ早いほどありがたい」と漏らしたのも、政府の焦りを物語っていたと言えよう。

 6月3日の夜、「日本からのワクチンは明日午後に台湾到着」とのニュース速報が台湾全土を駆けめぐった。当日、ワクチンを載せた日航機が台北桃園国際空港に到着する模様はすべてのニュースチャンネルが生中継で報じた。航空機の航路をネット上で追跡できるサイトでは、2万人がこの便を見守っていたとされる。実際、在日米軍の海軍陸戰隊に所属する偵察機が沖縄の基地を飛び立ち、台湾領空に接するエリアまで「護衛」していたと報じられた。

 当夜、台北101ビルや有名ホテルはライトアップで日本への感謝を示した。蔡英文総統はフェイスブック上に動画を投稿し「苦難の時に手を差し伸べてくれた日本こそ台湾の本当の友人」と感謝を示した。ネット上には「謝謝日本!」の文字が躍り、日台の距離が一段と縮まったことを実感することとなった。

 その後、日本に歩調を合わせた米国や東欧諸国からのワクチン寄贈、国産ワクチンの開発と接種開始、半導体企業TSMCなどが協力したワクチン製造企業との交渉の進展により、ワクチンに対する台湾社会の不安はほぼ一掃されたと言える。

 さらに、3カ月近くにわたる政府の徹底的な防疫措置と、人々の協力する姿勢が功を奏し、8月下旬にはついに「本日の感染者ゼロ」が達成されたのである。以後、感染者が出る日はあっても二桁台になることはなく、完全に感染者を掌握できていると言えるだろう。感染拡大時にネット上では「世界に台湾の奇跡を見せてやろう」を合言葉に「外出を控え、我慢しよう」と呼び掛け合う光景が見られたが、台湾社会はまさにそれを実現させたのである。

 その後、日本は9月までに計5回のワクチン寄贈を行ったが、世界中でどこよりも早く日本が台湾に届けたことに大きな意義がある。「親日国」として知られる台湾だが、日本に対し、中国の顔色を気にするあまり台湾に冷たい、という印象を持っていた人たちも少なくないからだ。もちろんそれは、台湾がこんなにも日本に親しみを感じ、日本に期待しているのに、という気持ちの裏返しでもある。昨年逝去した元総統の李登輝が「台湾は長い間、日本に片思いしていた」と表現したのも、そうした台湾の人々の気持ちを代弁したものと言える。

 しかし、今や日本は中国に気兼ねすることなく、台湾を中国とは別個の存在として尊重し、支持する姿勢を鮮明にし始めた。6月には参議院本会議で、台湾の世界保健機関(WHO)総会参加を求める決議を全会一致で可決したことはその代表的な例だろう。

 また、東京五輪では開会式でNHKアナウンサーが台湾チームを「台湾です」と紹介したことが大いにニュースをにぎわせた。台湾は1980年代から国際オリンピック委員会との間で取り決められた「チャイニーズ・タイペイ」として出場している。中国が台湾を「中国の一部」と主張したいため「台湾」や正式な国号である「中華民国」の名称で出場することに強く反対するからだ。

 しかし、「台湾です」と紹介されたことが、SNSやニュースなどで広まると、「台湾です」の日本語は流行語にまでなり、この一言が印刷されたTシャツまで売り出されるほどだった。何気ない一言ではあるが、自国の名前で五輪に出場できず、国際社会での疎外感を長年味わってきた台湾の人々にとっては、やっと自分たちの存在が認められたような気がしたのだろう。やはりネット上では「感謝日本」の言葉が飛び交ったのだった。

 今日、国際社会においても台湾への関心は高まり続けている。4月には日米首脳会談で「台湾海峡の平和と安全」に言及し、日本は米国と共に明確に台湾を支持する態度を見せた。中国の覇権主義に対抗する上で、日台間には防衛協力体制の構築や台湾有事の際のシミュレーション、外交関係のない台湾に対する日本の国内法整備などまだまだ課題は多いが、民主主義や自由、法の支配など、同じ価値観を共有する台湾への支持を日本が鮮明にしたことは台湾に大きな勇気を与えることになるだろう。