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タイ、外国人富裕層に10年ビザ


コロナ禍で観光業大打撃
経済回復へ技術者も優遇

 タイのプラユット政権が、長期滞在用のビザ発給を呼び水に外国人富裕層などを国内に呼び込もうとしている。世界有数の観光産業を育成してきたタイながら昨年来の新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)で、観光のみならず製造業の低迷や通貨安など経済的打撃は大きく、コロナ追加対策が迫られる中、財源確保の一つにしたい意向だ。
(池永達夫)

 タイ政府は今後5年間で、コロナ禍を機に世界各地に急増しているリモートワーカーや富裕層など100万人規模を国外から呼び込みたい意向だ。そうした人々をタイに引き寄せる“撒(ま)き餌”が10年滞在が可能な長期滞在用ビザの発給だ。

 ただそのハードルは結構高い。外国人が家族も含めた10年ビザを取得するには、国債や不動産を少なくとも50万ドル(約5500万円)分購入し、年間8万ドル(約880万円)以上の収入があることを証明する必要がある。リタイア組は最低25万ドル(約2750万円)分の国債や不動産購入と、年間4万ドル(約440万円)以上の収入証明が必要となる。

 また次世代自動車、ロボティクス、デジタルなどタイ政府が誘致対象とする業界で5年以上の実務経験がある高度技術を有する専門家も対象となっている。要は外国人富裕層の投資を促し、高度技術者を呼び込むことで、コロナ禍で低迷する経済を立て直すカンフル剤にしたいのだ。

 タイの観光産業は世界有数の規模と実績を誇ってきた。タイを訪れた外国人観光客は2019年、過去最高の約4000万人に上り、国際観光収入も1兆9119億バーツ(約6兆5000億円)といずれも最高記録を更新した。

 国際観光収入の対名目GDP(国内総生産)比を見ると、トップのマカオ73%に次いでタイが11%。経済規模が小さいマカオを例外とすれば世界規模でも、観光業が国の経済に占める割合は、収入額や対名目GDP比のいずれでもトップクラスだ。

 だがコロナ禍が観光産業を直撃、国内の移動制限や外出自粛が続いただけでなく、各国の移動制限措置によって外国人観光客が入らなくなった。

 タイ国政府観光庁(TAT)はこのほど、今年の外国人旅行者数が前年比82%減の120万人、それによる国際観光収入が850億バーツ(約2785億円)にとどまるとの見通しを示した。過去最高を記録した一昨年の外国人旅行者数や国際観光収入に比べれば3%、4%と激減ぶりが著しい。

 タイ経済の2本柱は観光と輸出だが、コロナ禍は双方を直撃したことで、昨年度の実質GDPが前年比マイナス6・1%と1998年のアジア通貨危機以来、22年ぶりの落ち込み幅だった。

 こうした経済苦境を脱する手立ての一環として、今回の富裕層および高度技術者に焦点を当てた優遇策が策定された。

 年間を通した温暖な気候や豊かな食文化と自然、ASEAN(東南アジア諸国連合)随一の医療観光国でもある整備された民間医療制度などで、外国人駐在員のみならずリタイア組のコミュニティーが存在するタイ。これまでの自然発生的なタイ好き人間の集まりだけでなく、政府主導の外国人富裕層と高度技術者の呼び込みが目論見(もくろみ)通りいくかタイ経済の未来を占う上でも興味を引く。