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ワクチン確保悩む蔡政権 台湾


野党・国民党 地方選視野に攻勢

 台湾では、新型コロナウイルスワクチン確保の遅れが蔡英文政権(民進党)の支持率を下落させ、中国と関係の深い野党国民党は政府への批判を強めており、来年の地方統一選挙に大きな影響を及ぼす可能性がある。(台北・早川友久)

15日、台北の病院で、日本から台湾に無償供与された新型コロナウイルスワクチンの接種を受ける高齢者(手前左)(台北栄民総合病院提供・時事)

15日、台北の病院で、日本から台湾に無償供与された新型コロナウイルスワクチンの接種を受ける高齢者(手前左)(台北栄民総合病院提供・時事)

 台湾は4月下旬までほとんど市中感染拡大もなく、ワクチン接種は喫緊の課題ではなかった。大手テレビ局のTVBSが3月下旬に行ったアンケートでは、ワクチンを「打ちたい」と希望する割合は41%で、「打たない」が45%だった。当時、医療関係者などを対象とした優先接種が始まっていたが、欧米などで副反応の発生が報じられていたこともあり、接種の必要性を感じなかったり、あるいは副反応を回避したいと考えた人々が多かったことを示している。

 ところが、市中感染が拡大した後の6月上旬に行われた調査では結果が一変した。ワクチンを「打ちたい」割合は86%と激増し、「打たない」は9%だった。

 こうした民意の変化を受け、蔡政権もワクチン確保に難しい舵(かじ)取りを強いられている。幸い、日本から第1便の124万回分がすでに届けられ、米国からも6月下旬に75万回分が到着予定など、足元のワクチン需要は取りあえずのめどが立ったものの、それまでの混乱に乗じて、国民党はさまざまな手法で政府に揺さぶりをかけている。

 5月下旬、中国政府の報道官は「中国が台湾に必要なワクチンを供給する意思がある」と発言した。陳時中衛生福利部長(厚生相)が「中国が打っているものは、われわれは怖くて使えない」と一蹴したが、国民党は「ではワクチンをどこから調達するのか」と噛(か)みついた。同様に、国民党は独ビオンテック社の中華圏総代理店である上海復星医薬を通じてワクチンを調達することを主張したが、これも政府が「透明性が不足しており、ワクチンが台湾の基準を満たすか知るすべがない」ことを理由に拒否した。

 すると、国民党所属の地方首長が「中国からワクチンを買い付ける」と言いだした。ルートはあるから、独自に交渉すると発言して物議を醸したが、政府は「交渉は一律、中央政府が行う」とはねつけた。

 国民党周辺の勢力も動きだす。シャープを買収した鴻海の董事長、郭台銘氏は「私ならワクチンを入手できる」と発言し、個人での買い付けを示唆した。また、台湾最大規模の仏教団体で、中国や国民党とも密接な関係を持つ国際佛光会も米国からワクチンを買い付けて政府に寄付する計画を持っているとメディアに語った。

 両者とも政府がやはり「交渉は政府が担う」との原則で取り合わなかったが、一部の民進党支持者から「ワクチンが早く手に入るなら悪くないのでは」といった意見が出て、原則論だけでは世論を味方に付けられない難しさを露呈している。裏を返せば、国民党の揺さぶりが一定の効果を挙げているといえる。

 国民党による政権批判は、来年秋に行われる地方統一選挙の選挙戦を見据えてのことだ。この地方選は、2期目の蔡英文政権にとって「中間テスト」と位置付けられるが、これまで新型コロナ対策で高い成果を挙げてきた民進党政権に比べ、国民党は存在感を見いだせないできた。台湾は中国とは別個の存在と考える民意が主流となり、中国との関係が近いと目される国民党にとっては、存在意義が問われているともいえる。

 ただ、台湾という「国家」の方向を決める総統選挙に比べると地方選は地域密着型の利益誘導選挙であり、国民党に勝機がないわけではない。むしろ、ワクチン接種政策で民意をくみ取った発言を続ければ、地方選での勝利も見えてくる。来年の地方選挙の勝敗は、ワクチン政策がカギを握る、といっても過言ではないだろう。