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チャイナパニックから得る教訓


日本安全保障・危機管理学会上級フェロー 新田 容子

デマ飛び交うSNS社会
「真偽検証」の体制整えよ

新田 容子

日本安全保障・危機管理学会上級フェロー
新田 容子

 世界を震撼(しんかん)させている新型コロナウイルス肺炎の感染拡大が止まらない。世界保健機関(WHO)はやっと1月30日に「緊急事態宣言」を宣言した。我が国もこの流れに基づき、感染症法で定める指定感染症の政令日を前倒しするなど迅速な対応を進めている。

 一方、地元住民を安心させることを優先に積極的に情報開示する地方と、人権の配慮や風評被害を懸念する中央政府間の情報公開の格差が浮き彫りになっている。マスコミは世界的な公衆衛生危機に対する広範な恐怖を掻(か)き立て続けており、ヘッドラインで昼夜を問わず刻々と感染者数、死者数、各国の取り組みを伝えている。

対処すべき地球的課題

 厄介なことにウイルスの実態が分からないため、中国人のマスク等医療品の爆買い、団体旅行のキャンセル、インターネット交流サイト(SNS)の偽(デマ)情報に拍車をかけている。

 悪意のあるボットネット主導の電子メールは、コロナウイルスをテーマとして使用し始めた。多くの電子メールは日本語で書かれており、発生源が中国であったことから、意図的に事業者が影響を受ける可能性のある地理的地域を標的にしていることがうかがえる。メールの件名には切迫感を与えるために、現在の日付と「注意喚起」を表す日本語が含まれている。電子メールには、本物らしさを装うために対象の県の関連公衆衛生当局の正当な郵送先住所、電話番号、ファクス番号を含むファイルも添付されている。

 今回のアウトブレイクが我々に突き付けている大きな教訓について論じたい。

 国家としては中国が感染源であり、初動遅れに対して医療の専門家たちからも批判の声が上がっている。全て党がコントロール、掌握する国家だからこそ地方は指示なし、承諾抜きでは動けない。サイバーエスピオナージのオペレーション、法の秩序に対しても我々とは相いれない体制、情報統制ならびに情報操作を推し進めてきた現状から、中国の情報開示やWHOへの働き掛けにでさえ、各国が懐疑的にならざるを得ないのが現状だ。

 しかし、我々が今回学ぶべくはウイルスがどの国、どの地域で発生するかはどの国にとっても予測もつかないこと、加えて拡散していくのをもどかしくも抑え込むことができず、小さな気付きを見逃し、耳を傾けない状況に陥りがちな現実があることだ。見ざる、聞かざる、言わざるを決め込む国も人も存在している。従って一国への恨みの感情は横に置き、地球規模の課題としてしっかり直面する必要がある。

 気候変動が地球上にはっきりとした変化をもたらしている。温暖化で今後、新たなウイルスや感染症や未知の生物が発生することも十分に考えられる。今回のように米連邦準備制度理事会(FRB)の不透明さへの言及から金融政策、経済政策や貿易投資にも大きく影響を及ぼす可能性がある。

 現在、SNS社会で多くのフェイクニュースやプロパガンダが蔓延(まんえん)している。例えば一国のリーダーがツイッターを好んで利用し相手側を激しく攻撃したり、報復の応酬や自身のプロパガンダツールとして利用したりしている。この現況を注視し我が国もファクトチェックの体制を整える必要がある。

 特にグローバルな出来事が既にテロやパニックを引き起こしている場合には、脅威アクターが恐怖という基本的な人間の感情を悪用することは彼らの常套(じょうとう)手段だからだ。情報公開が十分でなければ人はSNSを通じてより多くの情報を得ようとする。

 短期的には知恵を絞り、努めて冷静にグローバルレベルのパンデミックとならないようこのコロナウイルスを封じ込め、撲滅に尽力を注ぐこと。長期的にはこのコロナウイルスを単なる過去の事例とせず、次のアウトブレイクに神経を使うこと。SNSによるフェイクニュースやプロパガンダに振り回されず、どのタイミングでどんな手口でサイバー攻撃が行われているのか、人間の思考はワンパターンに陥りやすいところを敵の脆弱(ぜいじゃく)性として見ればよい。

逆効果となる情報統制

 今回の流れも2011年3月11日の東日本大震災時と酷似してはいまいか。インターネットの鎖国に取り組み、また日頃、情報統制や情報操作を行っている諸国は今後の危機管理の観点から有事の際に自国、あるいは自分の首を締める結果に陥ることを悟るべきだ。大国としての証しは正しく教訓を学び、生かすところにある。(本稿執筆時点〈1月31日〉)

(にった・ようこ)