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台湾総統選まで1週間余、香港情勢背景に蔡氏優勢へ一変


 11日投開票の台湾総統選まで1週間余となった。中国の露骨な台湾併合圧力にさらされる中、自由と民主主義体制の台湾にとって正念場の選挙であり、東アジアの平和と安定に直結する重要な選挙となる。総統選は現職の蔡英文総統が野党候補・韓国瑜高雄市長に圧勝する勢いだが、焦点は同日行われる立法院(国会)選挙の結果だ。(編集委員・池永達夫)

焦点の立法院選では野党リード

 再選を目指す与党・民進党の蔡英文総統と対抗馬の野党・国民党の韓国瑜高雄市長との争いは、蔡氏が大幅リードする形で推移している。台北のケーブル・衛星ニュースTVBSが先月14日に発表した調査結果では、支持率は蔡氏50%に対し、韓氏31%、野党・親民党の宋楚瑜氏6%と大きく差が開いている。

蔡英文総統

蔡英文総統(時事)

 蔡氏には三つの追い風が吹いている。それは、昨年6月以降の香港情勢の混乱、中国と対峙する米国の台湾支持、そして好調な経済だ。

 正直、一年でこれほど大勢に変化が起きるとは思いもしなかった。2018年11月の統一地方選で蔡政権の民進党が大敗。民進党の牙城だった高雄市の市長の椅子も失った。蔡氏は民進党代表の座からも降りざるを得なかったほどの惨敗ぶりで、蔡氏の総統再選どころか民進党の総統候補に選出されるかどうかも危ぶまれたほどだった。

 それが昨年年頭、中国の習近平国家主席が演説で「一国二制度」を台湾に迫ったことに蔡氏は断固拒否の態度を示したことで、蔡氏支持が上向きだした。

韓国瑜氏

韓国瑜氏(時事)

 とりわけ反政府デモが続く香港情勢が、台湾総統選の様相を一変させた経緯がある。香港の「一国二制度」の無力化を図る中国に抗議する若者らを警官隊が弾圧する光景に、「今日の香港は明日の台湾」との危機感が広がったのだ。台湾に統一を迫る中国への警戒感が一気に高まり、きっぱりと「一国二制度」を拒否する現職の蔡総統の支持率が急回復した。

 元来、香港の反政府デモの雨傘運動は、立法院を占拠した台湾のひまわり学生運動に刺激されたものだった。その雨傘運動が源流となった今回の香港の反政府デモから台湾は、「一国二制度」という衣の下に着こんだ北京の鎧を鮮明に見ることになった。

宋楚瑜氏

宋楚瑜氏(時事)

 いわば台湾は、香港という「21世紀のカナリア」に中国リスクをはっきりと見とったのだ。「炭鉱のカナリア」は、坑内のガス発生をいち早く知らせる。その意味で台湾は、負うた子に道を教えられた格好だ。

 その台湾の人々が共有することになった危機感が、中国と一線を画す蔡氏と対中融和路線の韓氏への支持率の開きとなって表れている。

 それでも選挙は水物。蓋を開けてみるまでは、誰も予測はできないものだ。2004年の総統選では、現職の陳水扁総統の再選が危ぶまれていたが、投票日直前の陳総統銃撃事件で一気に流れが変わり、同情票が再選を確実にさせた。

 それでも、そうした流れを変えるスキャンダルやショッキングな事件が起きない限り、今回の総統選で民進党の蔡英文・頼清徳(副総統候補)コンビが勝利を収める趨勢にある。

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 ただ、民進党が懸念しているのが、同日行われる立法委員選挙の成り行きだ。

 総統選の蔡氏への支持率は高く、野党の国民党候補に大きな差をつけているものの、日本の国会に相当する立法院(定数113)選挙では支持率が反転している。TVBSが先月14日に発表した調査結果では、総統選で蔡英文氏支持率が野党候補を圧倒しているものの、政党支持率では逆転し、野党国民党の支持率32%に対し民進党は28%となっている。

 立法委員選は小選挙区と政党に投票する比例区を中心に争われる。定数113のうち現状は民進党が68議席と過半数を制している。有権者は中国と一定の距離を取るため総統選では蔡氏を支持しつつ、立法委員選では身近な国民党候補に票を投じる可能性がある。

 蔡氏が再選を果たしても議会で過半数を割り込めば「ねじれ」が生じ、多数派の野党に重要法案成立を阻まれる可能性がある。これだとトップダウンで意思決定できる中国に立ち向かうには弱い。

 総統の職務の傍ら、平日夜や週末には台湾各地での選挙活動に駆け回る蔡氏は「改革を進めるために国会での過半数が必要だ」と訴える。民進党幹部も「過半数を取れるかギリギリの闘いだ」と危機感がみなぎる。

 こうした中、存在感を高めているのが第3勢力だ。二大政党がいずれも過半数に届かなかった場合、議会運営のキャスチングボートを握る可能性がある。

 第3極の最有力候補は今夏、台北市長の柯文哲氏が立ち上げた台湾民衆党だ。

 柯氏は、イデオロギー色の強い二大政党による利権争いが台湾の政治を劣化させていると主張。対中政策では台湾の主体性を守ると強調する一方、「両岸一家親」(中台は一つの家族)などと中国にすり寄る発言も多い。曖昧さが目立つが、二大政党に飽き足らない若者らの支持を集め、各種世論調査での政党支持率は10%前後を占める。

 4年前の選挙では、一気に民進党、国民党に次ぐ第3勢力に躍り出た時代力強は、党内分裂騒動にさらされ、今回の選挙では台湾民衆党にリードを許すことになりそうだ。

 ともあれ、東アジアの平和と安定に直結する台湾の運命が、住民意思によってまもなく決まる。地政学的要衝にある台湾は、日本の安全保障や繁栄にも直結している。日米台は自由や民主主義、法の支配などの価値観を共有するパートナーだ。今回の総統選、立法委員選で日米台という「黄金の三角形」が強化されるよう願うばかりだ。