中国の向こう1年の重要政策を決める全国人民代表大会(全人代)が閉幕した。注目されたのは、トランプ米大統領の対中圧力が加わる中、どう対抗しようとしているかだった。明らかになったのは、徹底した挙国体制で米国の圧力を跳ね返していこうとする中国の基本姿勢だ。
日本の4倍以上の国防費
王毅外相は記者会見で、米国を念頭に「全ての国々が自国優先を強調するなら、世界は弱肉強食のジャングルに戻る」と述べた上で「国連や多国間協議を重視し、グローバルサウス(新興・途上国)の声を高める」とも強調した。トランプ政権が「米国第一」を掲げ、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの脱退など国際社会を困惑させているのを逆手に取り、国際的影響力を高める戦略とみられる。
だが、台湾沖で軍事的威圧を常態化させ、グローバルサウスの国であるフィリピンに対し安全保障上の挑発を伴った圧力を加えるなど、東・南シナ海で力による一方的な現状変更を試みているのは中国自身だ。そうした中華秩序構築の後ろ盾と頼んでいるのが、右肩上がりの軍事力増強だ。全人代は今年の国防費伸び率を7・2%とする方針を打ち出した。中国の国防費は、表立ったものだけでも日本の4倍以上に膨れ上がっている。
中国は習近平国家主席の「強軍思想」をバックボーンに、2050年までに「世界一流の軍隊」を目標として掲げている。今年中には3隻目の空母が就役する見込みで、海軍力で米国に対抗する姿勢を示している。また米国防総省が昨年12月に発表した年次報告書によると、中国は600発以上の核弾頭を保有し30年までに1000発を超えるとみられている。
習政権の最優先事項は「台湾併合」だ。中国軍報道官は今回の全人代で「台湾の民進党政権は米国に頼って独立を目指している」とし「中国は外部からの干渉を許さない」と米国を牽制(けんせい)した上で、台湾統一を目指し軍事的圧力強化の姿勢を示した。
昨年来、それまで恒例だった首相の会見が行われていない。代わりにタカ派の外相と軍報道官を前に出したとすれば、中国の地金が露見したことになる。ただ王氏の会見では、米国に配慮するしたたかさもうかがえた。王氏は「米中の対立は選択すべきではなく、両国は幅広い協力の余地がありパートナーとして繁栄すべきだ」と述べた。
禍根残す小手先の和平
こうした中、米中首脳会談が6月にも開催される動きが出てきた。トランプ氏と習氏の誕生日は6月14日と15日であり、両国の関税引き上げの応酬が続く中、お互いの誕生月での会談開催で中国は、米国の追加関税発動の回避および半導体輸出規制の緩和に期待をかける。
だが今回の全人代で明らかになったのは、中国が四半世紀後をも見据えての米国追い落とし戦略といった長期展望を持っていることだ。目の前の軋轢(あつれき)を避け、小手先の和平構築に動けば歴史に禍根を残すことになる。わが国も、「政権は銃口から生まれる」とする中国共産党の伝統的考え方に則(のっと)り、武威を固めることに余念がない中国の本質を見誤ってはならない。