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スピリチュアルケアで豊かな人生を 沖縄大学でシンポジウム開催

シンポジウムの参加者ら=那覇市の沖縄大学

人生のあらゆる事象に価値を見いだすように導くことで、生きがいや人としての尊厳を育む「スピリチュアルケア」を活(い)かした介護や緩和ケアなどについて考えるシンポジウム「ぬちどぅ宝のケア~生きる力を育むスピリチュアルケア」がこのほど、沖縄大学で対面とオンラインのハイブリッド形式で開かれた。終末期医療の現場に携わる識者らが登壇し、沖縄の文化や風土を活かしたスピリチュアルケアのあり方について議論を深めた。(沖縄支局・川瀬裕也)

家族や周りの肯定がケアに 玉置氏

大下氏 人そのもの受け入れ大切に

地域特性活かしたケア探求を 浜崎氏

スピリチュアルケアは、終末期医療などにおいて、患者が抱える死に対する恐怖や苦痛など、身体の痛みとは別の心の痛み(スピリチュアルペイン)から解放し、尊厳ある死を迎えられるようにとの思想から、米国のキリスト教をはじめとした宗教者たちを中心に発達し、2000年代に日本でも広まり始めた。

しかし、国民の信仰の大半が仏教系である日本において、僧侶は葬式など死後のサポートを担うイメージが強いため、スピリチュアルケアは浸透・定着していない現状がある。

シンポの第1部では、高野山真言宗の尼僧である傍ら、看護師として緩和ケア病棟や精神科のクリニックなどでスピリチュアルケアを実施している玉置妙憂氏が基調講演を行った。

玉置氏は、同シンポで議論する「スピリチュアル」は医療用語だと前置きし、「御朱印集めや、パワーストーンなどの『そっちの』スピリチュアルと非常に混ざりやすく、事実とても近いところにある」として、「まず私たちの役割は、スピリチュアルケアは怪しくないことを世の中に広めていくところにある」と、啓蒙(けいもう)活動の重要さを語った。

玉置氏は、スピリチュアルを、過去のトラウマや死に対する恐怖などが入った「心の中の小さな箱」と表現。この箱は潜在意識の中でしっかりとふたをされているが、「私たちの生きる力が弱った時に、ふたが開き、痛み(=スピリチュアルペイン)が出てくる」と説明した。

その状況を脱するためには、「本人が抱える苦しみの本質をそのまま本人自身が受け入れ肯定し、乗り越えていくしかない」として、その変化を促す「触媒になること」がスピリチュアルケアだと語った。

その上で、「神に許されるか否か」がスピリチュアルペインの大部分を占める西洋と違い、日本は「家族や社会に認めてもらえるかどうか」で悩む人が多い点を指摘し、日本においては、「家族や周りが肯定してあげることでケアにつながる」と強調し、アドバイスなどをしようとせず、悩みを「聴く」ことに注力すべきだと訴えた。

このほか、元訪問・緩和ケア認定看護師の宮麻衣さんや、日本ホスピス在宅ケア研究会研究員で「ぬちぐすい診療所」主宰の今村昌幹氏が登壇し、現場でのスピリチュアルケアの取り組み方などの報告を行った。

第2部のパネルディスカッションでは、日本スピリチュアルケア学会理事で臨床宗教師の大下大圓氏らがコメンテーターとして登壇し、沖縄におけるスピリチュアルケアのあり方などについて議論した。大下氏は「今そこにいる人そのものを受け入れ大切にすることこそがスピリチュアルケアの本質だ」と語り、「沖縄にはその(人を大事にする)精神性が強く受け継がれている」と語り、「自信を持って(ケアに)取り組んでもらいたい」と呼び掛けた。

琉球大学名誉教授で沖縄スピリチュアルケア研究会会長の浜崎盛康氏は、沖縄独自の先祖信仰の強さを例に挙げ、「シーミー(清明祭)には、墓で宴会をするように、死後の世界を肯定的に捉える人が多い」と指摘し、これらの地域的特性を活かしたケアを探求していく必要があると語った。

沖縄大学の山代寛学長は「スピリチュアルケアは単に終末期医療の場面だけでなく、よく生きるための大切なケアで、私たち全ての人生に関わるものだ」と述べた。これまで哲学者や宗教者にのみ委ねられがちだった「人の生と死」のテーマについて、スピリチュアルケアの観点から議論が深まる時間となった。

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