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子供たちに合った「いいね」経験を OISTこども研究所がシンポジウム

古川絵美氏(OISTのホームページから)

子供の注意欠陥・多動性障害(ADHD)分野などについて研究する沖縄科学技術大学院大学(OIST)の「こども研究所」はこのほど、子供を褒めてあげることの重要性について考えるシンポジウム「“いいね”のこどもへの影響」を開催した。同研究所グループリーダーの古川絵美氏らが研究発表を行ったほか、各界有識者やADHD当事者らが登壇し、子供との向き合い方について意見を交わした。(沖縄支局・川瀬裕也)

ADHD支援の一助に

研究発表で登壇した古川氏はまず、同研究所内でのADHDの定義は、注意の向け方や行動の瞬発力、特性において、「周りとちょっと違うから困り感が出てしまうこと」だと前置きし、具体的な特徴として、一つのことに集中できないことや、思い付いたらすぐ行動する場合があることなどを挙げた。一方で、「瞬発力があり、チャンスを掴(つか)みやすい」ことや、「活発的で元気がある」ことなどをポジティブな側面として紹介した。

これらの行動パターンには、神経生物学的要因が大きく働いているとした上で古川氏は、コミュニケーションなどを用いた周りの環境を通して、本人の行動に変化を促す「心理社会的支援」に役立てるため、脳や行動の反応パターンなどの研究を進めていると研究の概要を紹介した。

パネルディスカッションで議論する参加者(画像は提供された資料から)

今回のテーマである「いいね」について、古川氏は、褒められる経験をした子供がその行動を繰り返す特性に着目し、特定の行動を繰り返させる要因となる報酬を「いいね」と名付け、これが子供たちの行動にどのような影響を与えるかの実験を行った。

磁気共鳴画像装置(MRI)検査を用いて、お金の絵や美味(おい)しそうな食べ物、友情や愛情を連想させる映像などを見せた直後の脳の反応を調べたところ、脳内で全て同様の「いいね」の反応が見られたという。

これらのデータを踏まえ、さまざまな追加実験を行った結果、ADHDを持つ子供は、そうでない子供と比べ、「分かりやすい『いいね』がないと、頑張ることが難しい」傾向があることが判明。古川氏は、「子供たちに合った環境をつくってあげれば、みんな楽しく『いいね』経験を感じて、生活していけるのではないか」とまとめた。

実際のADHD支援のあり方について話し合われたパネルディスカッションでは、発達障害の子供たちをケアする放課後等デイサービス「ドーユーラボ」・DYL株式会社の中園佑太代表取締役が、ADHDの子供と関わる際に気を付けている点について、「目的を設定して、合理的・非感情的に接することが重要だ」と語った。また同デイサービス職員の上原達彦氏は、「懐に入り、同じ立場に立って対話をし、共通言語を作ってから支援に入ることが大切だ」と強調した。

実際に発達障害の娘を持つ日系ブラジル3世の女性は、ADHDでも人によって特徴が違う点を指摘し、「何かおかしいと思ったら、いろいろな所に相談して、個々の特性に合わせた支援をすることが必要だ」と呼び掛けた。

子供の褒め方についての議論では、結果よりも過程や伸びしろを褒めてあげることが、「いいね」につながるとの意見が出たことに対して、中園氏は、もし成果だけを褒めてしまった場合、「だって毎日頑張っていたもんね」と、過程を褒める言葉を付け足すことがポイントだと付け加えた。

モデレーターを務めたIIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者の川北秀人氏は、「支援者の育成も重要だが、当事者同士のコミュニティーをどうエンパワーできるかが行政や専門家の重要な役割だ」と語り、ディスカッションを締めくくった。

文部科学省の調査によると、2020年度に全国の小中高等学校でADHDの児童生徒は3万3000人以上おり、保護者らの認知度と共にその数は年々増加傾向にある。また、同省が22年に行った別の調査では、「小中学生の8・8%」に発達障害の可能性がある児童がいるとされる。

子供への「いいね」を用いたOISTのこども研究が、今後のADHD治療や支援に新たな可能性をもたらすことが期待される。

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