
貴重な資料や文献・古文書等を収蔵する博物館。恐竜展や昆虫展など定期的に繰り広げられる展示会や実演会は小学生のみならず大人の知的好奇心をかき立てる。ただ、博物館では運営するスタッフが収蔵物の管理・保存に神経を張り巡らす。そんな博物館の裏側の活動について知ってもらおうと北海道博物館はバックヤードツアーを企画。一般人向けに普段は見ることのできない収蔵庫を案内している。(札幌支局・湯朝肇)
資料劣化防止に細心の注意
ツアー参加者 遺物に触れ「貴重な体験」
「博物館ではよく展示会や工作などの実演会を行っていますが、それらは博物館の表側の活動といえます。きょうは博物館の職員が普段はどんな仕事をしているのか、裏側の活動部分を紹介していきたいと思います」――こう語るのは、北海道博物館で研究部博物館研究グループ主査を務める櫻井万里子さん。
同館では「博物館のウラ側を見てみよう」と題して館内の書庫や収蔵庫を一般の人に公開するバックヤードツアーを毎年2回ほど定期的に行っている。今年1月14日には今年最初のツアーが開催された。もっとも、博物館の裏側を公開するといっても大人数の募集には限界があり、この日も午前と午後に分けてそれぞれ定員が10人ほどという少数枠のツアー。募集してから短期間で定員が埋まってしまうという人気の企画である。

今回のツアーでまず案内されたのが書庫と呼ばれる図書室と資料の修復や文化財害虫を調査する作業室。全国の博物館や研究機関から寄贈された資料が収められた図書室を巡った後に作業室に入る。そこではスタッフの一人である高橋佳久さんが資料管理の大変さを披露する。「博物館にある資料は道民の共有財産。資料はいつまでも良い状態で保存し、次の世代につないでいく必要があります。そこで重要なのは温度・湿度の管理。また、文化財害虫には細心の注意を払っています」と語る。確かに、北海道博物館の周りは広域な森林公園となっており、文化財にとってみれば害虫という大敵に囲まれているといっても過言ではない。
ところでツアーのメインは収蔵庫巡り。同館には五つの収蔵庫があり、この日は第2収蔵庫と第3収蔵庫を回った。ちなみに、第2収蔵庫は明治以降の北海道開拓期に使われたプラウや馬橇(ばそり)といった大型農機具やニシン漁で使われた大型樽(だる)などが収められている。一方、第3収蔵庫は三つのフロアに分かれており、上層フロアには明治以降から昭和期まで道民が日常生活で使った小さな用具があり、中層フロアにはのこぎりや鍬(くわ)など産業と関わりのある中規模の器具、下層フロアには縄文土器や石器さらに化石などの古い時代の資料が並ぶ。
今回、収蔵庫を案内した考古学専門の学芸員の鈴木琢也さんは「考古学の資料についていえば、当館の学芸員が収集した資料の他に、学校や他の博物館・研究機関から寄贈されたもの、さらに個人のコレクターによって寄贈されたものの三つのカテゴリーで分類されています」と説明。その中には例えば、余市のフゴッペ洞窟で発見された縄文時代の遺物でシカや魚の骨で作られた複数の銛先(もりさき)などの他に、壁画が描かれた岩石の一部など貴重な遺物が収蔵されている。また、熊野コレクションと呼ばれる個人が収集した縄文時代の土器・石器や道立札幌西高等学校郷土研究部が1947年から73年までに道内各地から集めた、たくさんの資料が保存されている。
この日は時間の都合上、第1、4、5収蔵庫は見学できなかったが、同館ではそれぞれの収蔵庫に焦点を当ててツアーを企画している。ちなみに第1収蔵庫には漆器や木製品、衣服、絵画など温度変化に弱い資料が収められている。第2収蔵庫にはシカや鳥など動物の剥製が保存され、第5収蔵庫には古い時代の手紙や書物など古文書が保管されている。
このツアーに参加した見学者からは「アンモナイトなどの化石や縄文時代の土器・石器といった普段見ることのできない資料を博物館の裏側から見ることができて嬉(うれ)しかった」との声が上がるなど貴重な体験となったようだ。北海道博物館ではテーマとするピックアップポイントを変えながら今後もバックヤードツアーを展開していく。