石川県金沢市の金沢ふるさと偉人館で、恒例の「自画像展-自分を見つめ、自分を描く-」が開かれている(能登地震の影響で6日まで点検作業、その後は通常展示)。今回で16回を重ね、市内の幼児から中学生までが、自身の顔と向き合い、しっかり観察して描いた作品1516点が展示されている。作風は水彩絵の具やクレヨン、鉛筆、版画、パソコンなど思い思いの手法で自身の特徴を捉えている。全国的にもユニークな作品展で、これだけ個性豊かな顔が並ぶと実に壮観だ。(日下一彦)
思い思いの手法で作画
余白飾り、自身を引き立て
同展は今回で16回を数え、1階フロアの壁や特設パネルに全作品が張り出され、会場はさまざまな自画像で埋め尽くされている。保護者から好評のこの作品展は、戯曲家で元館長の松田章一さんの発案で始まった。松田さんは、東京芸術大学で創設以来続いている卒業制作の自画像展にヒントを得て、「自画像を描くことで、自分を見詰めるきっかけになれば成長につながる」との思いから始まった。
展示は時計回りに幼稚園・保育園の年少、年中、年長組の順で、小学校低学年から高学年と続き、中学生の作品までで構成されている。数では年長組と小学校低学年の作品が最も多い。順に見ていくと、たどたどしい線や色の使い方が、年齢が上がるにつれてしっかりし、同時に観察力も増しているのがよく分かる。笑ったり泣いたり怒ったりの喜怒哀楽の表現も工夫され、成長過程が一目瞭然でとても興味深い。子供たちにとって、日常生活で鏡に映った自身の顔をじっくりと眺めて、それを描くことはほとんど珍しいだけに、意義のある作品展だ。
年齢順に見ていくと、年少児は顔の輪郭を描くのがやっとだったり、目や鼻もそれらしく描くので精いっぱいの様子。それでも一生懸命に取り組んだ様子が見えて、ほほ笑ましい。年中、年長組になると観察力が深まり、顔の特徴や髪形なども上手に捉えている。ことに年中組になると、顔の喜怒哀楽の表情がより詳細に描かれ、髪形も三つ編みや束ねた髪がはっきり描かれている。体の部位の特徴もよく表現され、デフォルメされたように耳が大きく、目がパッチリした絵が登場する。それらが巧みに描かれ、成長が感じ取れる。
小学校の中学年・高学年ともなると、表情がさらに豊かになり、運動に没頭して大粒の汗を流す様子など、作風がますます多彩になっている。じっくりと一点一点見ていくと、おとなしい性格が連想されたり、明朗活発な姿や、ちゃめっ気たっぷりの気性などもうかがえ、これが自画像展の良さのようだ。中学生の作品では美術部の生徒の作品が主で、水彩や鉛筆でしっかりしたタッチで描かれ、鑑賞者を魅了している。
右下に「優秀賞」の赤いシールの貼られた作品が幾つかある。これは審査委員を務めた金沢美術工芸大学次期学長の山村慎哉氏ら5人の審査委員が400点余りを選んだ。ある審査委員は「上手下手ではなく、一生懸命、自分を絞り出す作業で、それがどこまで表現されているかを見させてもらいました」と説明している。
最近の傾向として目に付くのは、余白をそのままにしておくのではなく、自身の趣味を描いたり、好きな動物やキャラクターで飾る傾向が増えたことで、手の込んだ作品が多くなっている。小学5年の男児の絵では、画面の中央に自身の顔を配し、その周りに大小30余りの恐竜や海中の生き物、空を飛ぶ怪鳥などを描いている。他の児童は恐竜同士が戦う姿も加え、どの生き物も豊かな観察力で描かれている。こうした作品群に出会うと、構想の奇抜さや筆致の確かさに感心させられる。
それとは別に、各審査員が「これは!」と心引かれた作品を2点ずつ選び、「審査員大賞」として10作品が展示ケースに入っている。いずれも細かな点まで丁寧に描かれ、構図の巧みさが増しているようだ。
美術部会長賞の中学2年の女子生徒の作品は、自身の顔を斜め前方から描き、顔やショートカットの髪、紫色の上着に幾重にもグラデーションを施した作品で、正確な描写が目を引く。美術クラブの顧問の先生からこうした描き方を教わっているようで、同クラブの他の生徒の作品にもそれが見られた。毎回、新たな発見があり、子供たちの豊かな発想に驚かされる作品展だ。
同展は1月21日(日)まで。入館料は一般310円、65歳以上210円、高校生以下無料(子供や孫が在籍していれば無料)。休館日は月曜。問い合わせ(電)076(220)2474。