練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブ代表 中桐 悟氏が基調講演
![](https://www.worldtimes.co.jp/wp-content/uploads/2023/12/講演する練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブの中桐悟代表=11月29日、東京都港区の日本財団ビル.jpg)
少子化や家族のあり方の多様化が進む今、保護者の負担が少なく、どのような家庭の子供でもスポーツを楽しめる環境をどうつくっていくのか。笹川スポーツ財団はこのほど、子供のスポーツ離れを食い止めることをテーマにシンポジウムを開き、東京都練馬区を拠点とする練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブの中桐悟代表が基調講演した。(豊田剛)
気軽にエントリー、業務分担を排除
子供のスポーツ離れ食い止めにメリット
少年野球人口が減少傾向にある。全日本軟式野球連盟(全軟連)によると、2022年度の小学生チーム数は9842。統計上のピークだった1980年度の3分の1程度に減った。少子化だけではなく、父母によるサポート不足と経済的な負担がその要因であることが明らかになっている。
多くの少年野球チームが所属する全軟連は今年6月、「昨今の学童登録チームおよび競技人口減少の要因の一つとされている、父母会の運営や保護者のサポート」について通知。その中で、「時代の変化により、共働き世帯の増加や休日の過ごし方の変化により、子供が野球をやってみたいと言っても、野球をさせたくても保護者の金銭的負担以外にも時間的な負担が大きいことにより、野球をさせることが、敬遠される傾向が見受けられる」と説明。「父母会の設置や保護者のサポートを求めることは各チームの任意」とする基本的な考え方を明記した。
こうした中、これまでの少年野球のイメージを根本から覆す取り組みで成功しているチームがある。中桐悟代表率いる練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブだ。
笹川スポーツ財団はこのほど、「誰が子どものスポーツをささえるのか?」と題した連続セミナーの3回目を開催。中桐氏を講師に招いた。少年スポーツクラブの指導者や責任者らが多く参加した。
中桐氏は3児の父でサラリーマン。既存の自治体主体の学童野球チームの運営体制に疑問を感じ、2021年4月にゼロからチームを立ち上げた。「親の負担が少ない少年野球チームを探していたが、なかったので自分でつくった」と話した。
クラブの参加費は月額7300円。既存の少年野球チームと比べて割高だが、それでもほかの競技や習い事と比べても安価。中桐氏はスイミングスクールの月謝を参考に値段設定したという。活動は週1回だけで、私立のリーグに属している。
チームの特徴は、保護者の業務分担を徹底的に排除していること。中桐氏は「新しい選択肢の一つとして、気軽に野球にエントリーできるように工夫し、野球を始める阻害要因を排除している」と話す。こうした環境を求め、東京以外からも練習に参加している児童もいるという。「チームを運営するための無駄なタスクは排除。必要なものは外注し、外のリソースを使う」のが運営方針だ。
保護者が練習を見学するのは自由だが、グラウンド内の手伝いは原則不要。この他、①お茶当番は不要②けがの手当ては有資格のトレーナーが担当③練習補助は不要④審判は外部委託⑤活動場所の確保や広報は代表が行う⑥集金は自動引き落とし⑦現地集合が基本で配車は不要――と徹底的に保護者の役割を省いた。
「家族の時間を大事にできる」「他の習い事と両立できる」「怒鳴らない指導、短時間の活動」など、評価する声が多く寄せられる。
クラブを運営する参加者から「既存のチームを変革させたいがどうすればいいのか」と問われると、中桐氏は「チームを中から変えることは難しい。抵抗勢力があればどうしようもない」と回答した。現状は、中桐氏のように一からチームをつくる方が得策なのだろう。
シンポジウムでは、中桐氏の講演に先立ち、笹川スポーツ財団が21年度に小学生のスポーツ活動における保護者の関与・負担感に関する調査結果を発表した。野球、サッカー、水泳、バレエ・ダンス、バスケ、テニス、武道、体操・体育と8競技別に調査したところ、家庭内・チーム内を問わず、人間関係の悩み、自由に使える時間が減るなど、ほとんどの負担に関する項目で野球が1位になった。父親の関与も他の競技を大きく引き離した。
ただ、保護者が関わることのメリットもある。「保護者どうし仲良くなれた」「地域との関係・つながりができた」「自身がスポーツに興味・関心を持つようになった」のいずれの項目も野球の割合が最も高かった。
子供がスポーツ活動をするに当たり、送迎、弁当作り、ユニホームの洗濯、道具の調達、お茶当番、体調管理など、特に保護者の役割は多岐にわたる。保護者が支えられなくなると子供がスポーツから離れていく現実にどう向き合い、対処するのかは大きな課題だ。