説話や落語に彩られて 高尾山の天狗たち/東京都八王子市

高尾山の天狗像

修験道の盛んだった山に行くと、天狗(てんぐ)に出合うことが多い。東京都八王子市にある高尾山もそうだ。山中の高尾山薬王院有喜寺は真言宗智山派の関東三大本山の一つ。豊かな森に抱かれた大杉、山門、堂宇(どうう)などが配置され、いにしえの世界へ誘われていく。

四天王門をくぐると大小の天狗が迎えてくれる。これは意外に新しく、平成17年の造立で、俊源大徳の中興開山630年を記念して、第32世貫首(かんす)大山隆玄大僧正の発願でできたそうだ。多くの参拝者が記念撮影をしていく。

山門の裏や、本堂前や、権現堂にも天狗がいて、装束は山伏と同様だから、その象徴とも感じられる。天狗にまつわる説話があり、高尾山は昔、天狗山と呼ばれていたそうだ。彼らはこの山に住んでいて、村人を守る存在だが、悪いことをたくらむ者には恐ろしい。天狗は88人いて、代表者は十郎坊といった。

説話の一つに「天狗つるし」がある。ある大工職人が院殿の改修工事で山に来たが、天狗が魚を嫌っていることを知りつつ、それを恐れずに鰯(いわし)の丸焼きを食った。そうしたら仲間の目前で、杉の梢(こずえ)につるされたという。

改めてこの2体の像を見てみると実によくできている。右側の大天狗は老人でひげを生やし、左側の小天狗はやや若い。そして歌舞伎役者のように足を踏み出し、手を引いたり突っ張ったりした表情が決まっている。

江戸落語にも「天狗裁き」という演目がある。たわいのない夢の話だがそれだけに面白い。山の天狗たちも姿を現さずにはおれないのだ。

(増子耕一)

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