【社説】首相襲撃報告 遊説会場の安全確保が最優先

岸田文雄首相の遊説先で爆発物が投げ込まれた事件を巡る検証で、警察庁は「警護計画には、危険物を所持した者を首相に接近させないための実効的な安全対策がなかった」とする報告書をまとめた。明らかになったのは、演説主催者側の都合で安全対策が次々と骨抜きになっていった実態である。

政治家側が対策に難色

報告書によると、和歌山県警は聴衆最前列から演説台まで10㍍以上の距離を確保するよう要請したが、主催者の自民党和歌山県連側が難色を示し、約5㍍に設定された。県連側は、参加者は漁協関係者約200人で、他に広く参加を呼び掛けないと説明。しかし実際は、事件前日に自民党サイトに和歌山市の漁港で演説する告知が出た。これに県警は気付かなかった。

さらに県警は、聴衆エリアの入り口に受付を設置することや金属探知検査の実施を求めた。しかし県連側は聴衆が漁港関係者に限られるとして、いずれも実施しなかった。漁協関係者の判別方法も不十分だったが、県警は実効性を確認しなかった。これらが積み重なって首相への襲撃が起きたのであれば、主催者と県警の責任は重い。

爆発物を投げ込んだ木村隆二容疑者は、やすやすと会場に入っている。関係者の判別や金属探知検査をきちんと行っていれば、事件は防げたのではないか。2022年7月の安倍晋三元首相銃撃事件に続いてテロを許したことを、警察や関係者は厳しく受け止めなければならない。

今後の対策として挙げられたのは、警護対象者が演説する際、主催者の政党側への要請は口頭でなく文書やメールで具体的に伝える。会場は屋内を優先するよう促し、入場管理の厳格化を求めるとともに、手荷物と金属探知検査の実施を事前告知してもらい、悪意ある者の参加を牽制(けんせい)する――などである。

一方、政治家の間では警護の強化で聴衆との距離が広がることへの抵抗感も根強いようだ。選挙戦でなるべく聴衆に近い所で政策を訴えたい気持ちは理解できるが、そのためには会場の安全確保が大前提だ。テロが起きれば、政治家だけでなく聴衆が巻き込まれる恐れがある。

報告書では「主催者と緊密に協力した警護の実施」に取り組むとしている。政治家は選挙遊説などを行う際、警察の要請を踏まえて安全を最優先した上で、いかに効果的に訴えるか知恵を絞る必要がある。警察は政治家だけでなく、聴衆の安全確保にも責任を持つべきだ。

テロ防止へ報道の検証を

首相襲撃では警護の問題とは別に、安倍氏の事件に関する報道が模倣犯を生んだとの見方も出ている。安倍氏を銃撃した山上徹也被告は、母親による世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への多額の献金で家庭が崩壊したことを恨んでいたとされる。

主要メディアは山上被告を犠牲者のように扱う一方、旧統一教会を「反社会的団体」と決め付けた。安倍氏に批判的な人の間では、山上被告を英雄視してテロを容認する言動さえ見られた。こうした風潮が首相襲撃を誘発した可能性は高い。テロ防止に向け、報道の在り方などを検証すべきだ。

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