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自室にいながら、自分が現地に行って、動いているかのような体験共有ができる「ボディシェアリング」の研究開発と実用化が進んでいる。手掛けているのは琉球大学工学部の玉城絵美教授で、同氏はこのほど沖縄県宜野湾市で行われたイベントでリモート講演した。この技術は観光や教育に新たな形を示す可能性を秘めている。(沖縄支局・豊田剛)
琉球大の玉城教授がリモート講演
新たな観光や教育の可能性
仮想的な空間などを現実であるかのように疑似体験できるテクノロジー、仮想現実(VR)が6年ほど前から出回っている。いわゆるデジタル革命が起きたのだ。ところが、玉城氏が開発しているボディシェアリングはその一歩先を行く。
「これまでは、目の前にリンゴがあるのにつかめないのが仮想空間だった」と話す玉城氏。手で触れたり、重みを感じるというような感覚を伝えることで、アバターやロボットだけでなく、遠隔地にいる人間も含め、自分ではない他の体と、インタラクション(相互作用)によって「体験共有」ができるというのだ。
玉城氏がボディシェアリングを構想したのは2000年。東京大学大学院在籍中に電気信号で腕の筋肉に刺激を与え、手指を指示通りに動かす装置「ポゼストハンド」(操られる手)を開発。11年に米タイム誌の「世界の発明50」に選ばれた。「ボディシェアリングのサービス、さまざまな感覚を数値化して伝えるという研究が当時、進んでいなかった。自分で研究・開発するしかない」と、大学で講義をする傍ら、研究からビジネス展開まで手掛けるに至った。
「昔は、歌川広重の絵を通じてお伊勢参りの観光体験をした」と玉城氏は語る。それが、IT技術が進むにつれ形を変えた。視覚と聴覚を受動的に体験共有するものとしてユーチューブやティックトックなどの動画があるが、これらは「受動的で他者の体験を共有しているに過ぎず、能動的で臨場感のある体験共有ではない」と言う。体験共有するためには視覚と聴覚以外に固有感覚が必要だという。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスが提唱した視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の「五感」が知られているが、本当は人間が持っている感覚はもっと多く、20以上あると説明。「内臓感覚」「触覚」「位置覚」「重量覚」「抵抗覚」などの「固有感覚」を共有することで、臨場感のある体験共有ができると考えている。
ボディシェアリングを観光業、デジタル産業にどう展開し体験にまで育てていくかだ。沖縄らしい観光は自然体験だ。その一つにマングローブ森をカヤックで乗り回るイベントがある。また、白いベルトを付けるだけでロボットが同じ動きをしてくれるシステムもある。
従来用いられていた言語(説明)、聴覚(音)、視覚(映像)の三つの情報に加えて固有感覚が加わる。水の重さ、どうパドルを漕(こ)ぐかまで伝えるため、能動的かつ臨場感があるという。ボディシェアリングのデバイスは2018年から販売。今や世界中に広がっている。
東京や海外にいながら沖縄本島北部の東村のカヤック乗りの体験ができるようになった。「デジタルで観光体験することで、よりそこに行きたい気持ちが高まり、リアルの観光がなくなるわけではない。今後は固有感覚・体験共有の時代がやってくる」(玉城氏)と見込んでいる。
玉城氏は、①農業人口の減少と高齢化②都市一極集中型の社会構造③障がい者の社会参画機会の制限と低賃金――という三つの社会課題があると指摘する。これらの課題を克服すべく、ロボットを使った遠隔農業も実施している。部屋の中にいながら、イチゴ狩り体験ができるのだ。2021年~22年の間に子供、障がい者、外出困難者らが観光農園を体験している。固有の課題として、新型コロナウイルス感染拡大によって観光産業が落ち込んでいることに加え、IT人材不足が指摘されている。玉城氏は「観光とIT教育を琉球大学で解決すべく、スタディケーション(教育と観光)とリカレント教育(社会人のためのスキルアップ)を組み合わせ、推進していく」と強調した。