慶良間諸島の潮流情報提供、観光客ら安全に


第11管区海上保安本部(沖縄県那覇市)はこのほど、10年にわたって海の環境調査・研究などを通して沖縄県民の安全・安心に貢献したとして、沖縄科学技術大学院大学(OIST、恩納村)に感謝状を贈った。海保のマンパワーとOISTの頭脳で互恵関係ができている。(沖縄支局・豊田剛)
軽石漂流予測が海難救助に貢献
近海の資源調査にも明るい兆し
感謝状の贈呈式は9月15日、那覇市の第11管区海上保安本部で行われた。同本部の一條正浩本部長は、OISTの研究は「私どもの捜索救助活動において大変有用で、県民の皆様の安全安心に役立つもの」とした上で、「11管区創設50周年、OISTとの連携10周年という節目を期に、さらに連携を深めていきたい」と抱負を語った。
感謝状を受け取ったOISTのピーター・グルース学長は、「島国日本は何世紀にもわたって周囲の海、気候、海洋資源とのバランスを取ってきた」とした上で、「近年の人間の活動に起因する海洋破壊が進み、密接に海洋に経済依存している沖縄県では特に深刻な問題になっている」と説明。「今後も研究を通して沖縄のために貢献していきたい」と述べた。
OISTの研究活動の一つに、沖縄周辺海域における黒潮、潮の干満に伴って発生する海水の流れなど、潮流のモデルやシミュレーションがある。これらを高度化するためには、実測した詳細な海深データ、海流や潮流のデータが不可欠だ。
一方、第11管区では、海上保安業務の一つとして、船舶、衛星等で観測されたデータを基に、海難発生時の捜索区域を決定するために漂流予測業務を行う。精度の高い漂流予測を行うには、船舶や衛星のデータだけでなく、シミュレーションで計算された海流や潮流の情報を必要としている。
そこで、両者は10年前の2012年に業務協力に関する協定書に署名した。その際、沖縄周辺の複雑な海流や潮流予測の高度化を実現することで、沖縄の海における安全・安心な活動、社会経済活動の発展につなげることを目的とした。業務協力は、主に御手洗(みたらい)哲司准教授が率いる海洋生態物理学ユニットと、11管区の海洋情報調査課が中心となり①潮汐(ちょうせき)モデルおよび海流シミュレーションの高度化②海底地形データおよび海流データの取得③漂流予測の精度向上④業務成果の検証・解析・評価――で実施することを確認した。
これまでの成果の一つは、日本屈指の人気ダイビングスポットがある慶良間(けらま)諸島周辺で、潮流情報の詳細情報を提供したこと。観光客らが安心安全にレジャーを楽しめるようになった。OISTが潮流シミュレーションを開発し、海上保安庁が運用する海洋情報表示システム「海しる」に掲載した。
これによって、潮流を200㍍間隔で把握することや3週間先の潮流情報を事前に確認することが可能になった。慶良間諸島周辺は水深が浅く、地形が複雑なため潮の流れが速く、ダイビングの事故が頻発していただけに、両者は「大きな成果」と誇っている。
また、昨年来問題になっている軽石漂流のシミュレーションでも協定が役立っている。
軽石は海岸に打ち寄せることで、港の船のエンジンが詰まり、漁業や輸送、観光業にも影響を及ぼした。そこで、御手洗准教授のユニットは、全地球測位システム(GPS)付きの漂流ブイや無人の自律型ロボットであるウエーブ・グライダー、ドローンなどを使った実験・観測を沖縄近海で行い、軽石の動きを予測し、シミュレーションした。「これが第11管区が行う海難救助に役立った」(一條氏)。
また、多くの海底資源が眠る沖縄近海での調査にも明るい兆しが出ている。御手洗氏は、OISTは第11管区が集めた海底地形に関する膨大な情報が手に入ることで、熱水鉱床の観測機器投入に役立ち、すでに学術成果が出ていると話した。日本は海洋資源大国としての可能性を秘めているだけに、今後の展開に目が離せない。