瑞々しい感性あふれた作品そろう
大学や大学院で漆工芸を学び、今春卒業および修了した学生たちが制作した漆芸作品を展示する「生新(せいしん)の時2022―漆芸の未来を拓く―」が、石川県輪島市の石川県輪島漆芸美術館で開かれている(7月3日まで)。今回で14回を迎え、漆芸を専門に学んだ令和3年度の大学および大学院の卒業生・修了生の作品45点を展示している。瑞々(みずみず)しい感性にあふれた魅力的な作品の数々に出会える展覧会だ。(日下一彦)
「突飛な作品」から「自分の大切なもの」へ発想変化
今回は金沢美術工芸大学、金沢学院大学、富山大学、東京藝術大学、京都市立芸術大学、東北芸術工科大学、広島市立大学、沖縄県立芸術大学の8大学で、漆芸を専門に学んだ令和3年度の卒業生と大学院修了生の作品が展示されている。毎回、若い世代の個性豊かで瑞々しい感性の作品が、漆芸の世界に新風を吹き込むと好評だ。紙面では、同展を担当した学芸員の寺尾藍子さんに、えりすぐりの3点を紹介してもらった。
金沢美術工芸大学美術工芸学部を卒業した堤琴音さんの『巡憶(じゅんおく)』(高さ40㌢、幅60㌢、奥行き28㌢)は、「夢」をモチーフにした不思議な作品だ。緩急自在、縦横無尽に稜線が巡り、ぶつかり、それらによって切り取られた曲面も、時にうねり、またある時は平坦(へいたん)に現れる。
「夢は自分の意識の有無に関係なく心に残っているものを巡る旅であると考えています」と堤さん。「心の奥底にある意識の一つの形として、その旅の道筋を表現しました」と説明している。
寺尾さんによると、「使われている乾漆の技法は自由に造形でき、緩やかなカーブを描いている面と引き締まるように角のある面が混在し、しかも漆の塗り面は鏡面のようで、法則性がなくあちこち向いています。それでもこういう形にまとめられ、形の強さに結び付いています。作品が持つ偶発性に『夢』に近いものを想像させます」と評している。
東京藝術大学大学院を卒業した重原雪花さんの『心地好い感覚』(高さ75㌢、幅170㌢、奥行き50㌢)は、イルカが水中をスイスイと泳ぐ姿が印象的で、「私の感じる水の気持ち良さを、イルカも同じように感じているような気がします」と重原さんはコメントしている。
「デッサン力や観察力など、立体を作り上げる能力にも優れています。イルカの体のどこに力が加わっているか、推進力など見ただけでも想像できます」と寺尾さん。足元を通り抜けるような低さに設定されているが、「いかにも浮遊しているかのように、一本の鉄だけで支えたのは作者のかなりのこだわりがあるようです」(寺尾さん)。
沖縄県立芸術大学美術工芸学部を卒業した宮平京弥さんの『暈塗梯梧沈金筥(ぼかしぬりでいごちんきんばこ)「赤霞」と堆錦総貼筥(ついきんそうばりばこ)「群青」』は二つでセット。「『赤霞』は沈金で線描されたデイゴの花とぼかし塗が相まって、暗闇から鮮烈な朱に染まっていく景色が想起されます。『群青』は干潮時に姿を現すサンゴ礁『リーフ』を表現し、堆錦(ついきん)技法によるごつごつした凹凸とその隙間から覗(のぞ)く螺鈿(らでん)の魚影が岩礁の情景を鮮やかに描き、時間の経過によって日々もたらされる、地域特有の『あわい』美しさをそれぞれの作品に込めたといえるでしょう」と解説している。
出展の傾向について、寺尾さんは「以前は突飛な発想の作品もありましたが、今では自分の大切なもの、自身に寄り添った作品が増えてきました」と分析している。同展は5月14日(土)に開会、7月3日(日)まで。会期中無休で、料金は一般630円、大学生以下は無料。また、作品のオリジナリティーをテーマとした出品者によるトークセッション動画がオンライン上で公開される。公開期間は6月18日(土)~7月31日(日)。コーディネーターを東京藝術大学の小椋範彦教授が務める。問い合わせ0768(22)9788。