10月といえばハロウィーンですね。海外では妖精が人間に「イタズラ」する話がメジャーですが、今回は英国に伝わる不思議なおとぎ話です。
(編集・石井孝秀)
ある村に一人のお婆さんが住んでいました。貧乏でしたが、いつもニコニコと明るい性格で、近所から「何があっても幸せに生きられそう」と呆れられるほどでした。
そんなある日、お婆さんは道端に落ちているツボを見つけました。「植木鉢にでもしてみようか」と思って拾ってみると、なんと中には大量の金貨がぎっしり。喜んだお婆さんはツボにショールを巻き付けて、引きずりながら家に持ち帰ることにしました。今日から大金持ちだと思うと、ワクワクが止まりません。
さすがに重い荷物なので、疲れたお婆さんが休憩しようと振り返ってみると、なんと金貨のツボは銀の塊になっているではありませんか! ところがお婆さんはというと、驚きはしたものの「夢でも見ていたみたいだね。でも、金貨じゃ盗まれないか心配で仕方ないから、銀でちょうどよかったよ」とニコニコしながら、またショールで銀を運び出しました。
しばらく進んで、お婆さんがまた振り向くと、今度は銀の塊が鉄の塊になっていました。でも、お婆さんは「こっちがいいね」と笑顔です。「金や銀なんて、私がまるで泥棒したみたいじゃないか。鉄なら鍛冶屋にでも売れるし、身の丈にあったお小遣いになるってもんさ」
さて、その後も鉄の塊は大きな石に変わりましたが、「ドアストッパーの代わりがほしかったんだよ」と、やっぱりお婆さんは前向きです。ようやく家に着いたので、お婆さんは石からショールを外して運ぼうとすると、突然、石が金切り声を上げました。
目を丸くするお婆さんの前で、石から四つの足が生え、長い耳と尻尾の生えた獣になったかと思うと、ケラケラ笑いながらどこかへ走り去っていきました。
一部始終を見ていたお婆さんは、この辺りに住むと言われている「ヘドレイ・コウ」という妖精のことを思い出しました。結局、金貨から石まで、全部妖精の変身したイタズラだったわけですが、お婆さんは「まさか本当に妖精の姿を拝める日が来るとはねえ! 私はこの村一番の幸せ者だよ!」と大喜びしたのでした。
【解説】
「ヘドレイ」とはイングランドとスコットランドの間にある地域で、「コウ」は「牛」と訳されることが多いようです。正体を現した妖精が四つ足の獣っぽいところから付けられた名前でしょうか。それにしても異界の存在に思いっきり化かされたお婆さんが、ここまで楽観的に物事を受け止め、しかも幸福感に包まれるという結末は、国内外でもかなり珍しいパターンです。現代人から見ても、参考にすべきポジティブ思考の持ち主かもしれません。