風光明媚な自然を堪能
人気の写真映えスポットも
台湾を代表する景勝地・太魯閣(タロコ)をはじめ、多くの魅力的な観光スポットを擁する東部の街、花蓮。5月中旬の週末、観光客向けの貸し切りタクシーを利用し、風光明媚な自然あふれる名所の数々を見学した。(台湾花蓮県・辻本奈緒子、写真・村松澄恵)
台北から高速鉄道に乗り、約2時間半。車窓から見える山海の景色を楽しみつつ花蓮の駅に着くと、タクシー運転手の洪さんが出迎えてくれた。
市街地に目をやる。実は出発前、台北の駅でインフォメーションセンターの女性職員に花蓮に行きたいことを告げると「落石が多いから危ない。行かない方がいい」というような忠告を受けたのだが、大通りには自動車やバイクが行き交い、すっかり日常に戻っているように見えた。洪さんも、ここ数日は余震も起きていないと話す。
道は開けていて、見慣れない南国らしい木々が異国情緒を感じさせる。
◇台湾東岸から海を望む
市街地をいったん離れ、海の方へ。七星潭風景区では、台湾東岸の海の景色を鑑賞できる。海は青く透き通っていて、浜辺に砂でなく石が敷き詰められているのは、あまり見慣れない光景だ。自然にできたとは思えないほど丸くきれいに削られた大小さまざまな石は、真っ白、灰色、黒、赤っぽいものなど色の濃さもそれぞれ違う。つい一つ、二つ持って帰りたくなる。
しかし、浜辺に人の姿が少ないのが気になった。週末ともなれば、地震以前は駐車場が満車で止める場所が見つからないのが普通だったと洪さんは言うが、その日は閑散としていた。大型バス用らしきスペースにも、観光バスは一台もない。
客のほとんどいない屋台で、ココナツジュースを買った。曇り空も相まって、少し寂しい雰囲気が感じられた。
観光業への打撃は計り知れない。道中にも地元の博物館などが点在してはいたが、どこも人の気配がなく物寂しい。インフラ面の復興ももちろんだが、観光客が戻ってくることは一層深刻な課題として浮かび上がる。こんなに面白い場所がたくさんあるのに、もったいないなと思った。
その後に訪れた太平洋公園のビーチでは、リゾートを楽しむ人々の姿を見ることができた。岩場の浜辺に海の大パノラマが広がり、振り向けば南国の植物が植わっていて雄大な山々も目に入る。人々は犬の散歩をしたり石の上に座って雑談したり、ゆったりと過ごしていた。公園内にはキャンピングエリアなどもあるそうで、日本人が好みそうなリゾートスポットだ。
◇禿山と化した景勝地
昼食は、地元の食堂のビーフン。ひき肉とネギがたっぷり掛かってボリューミーだ。器の底には肉汁が沈んでいる。店内の冷蔵庫に、空軍隊員募集のポスターが大きく貼られていたのが印象的だった。
「謝謝(シエシエ)」と食堂の店員に礼を言い、太魯閣へと向かう。車の窓から山々が見えてきた。木々が茂って見えるが、ところどころ岩がむき出しになっている。地震による落石でできたものだった。
日本だと大雨などで土砂災害が起こるが、台湾の山は岩肌のため土砂ではなく岩が崩れ、禿山ができてしまったという。
太魯閣渓谷は、大理石の岩盤を渓流が削り取ってできた台湾の景勝地の代表格。大自然の神秘を堪能できると知られる。
太魯閣国家公園と彫られた石碑の前で車を降りると、圧巻の山の景色が迎えてくれた。
しかしここでも、岩がむき出しになった“禿山”がひときわ目立った。山の中腹に見えるビジターズセンターまで、車で行けるよ、と洪さんが言ってくれたので、連れて行ってもらうことに。一応営業はしているようだったが、「人気の観光地」の空気はない。地震当日も多くの観光客が訪れていたというから、さぞ恐ろしかっただろうと想像を巡らす。
太魯閣国家公園管理処は、比較的被害の少なかった歩道を中心に、早ければ年内に順次開通させたいとしている。
◇日本統治時代から残る寺
次に訪れたのは、空海(弘法大師)を本尊とする慶修院。日本統治時代の大正6年に建立された寺院が今も残り、門には「気はながく 心はまるく…」と日本語で書かれた古びた木製看板が掛かっていた。数組の家族も参拝に訪れていた。
花蓮の写真映えスポットとして特に人気なのが、まるでおとぎ話に出てくるような外観のコーヒーショップ「スターバックス花蓮理想門市」。飲み物を注文してテラス席に行くと、湖の奥に森林が広がる幻想的な景観があった。日が落ち始め、山に隠れようとする光が、美しさを一層際立たせている。
女性たちやカップル、家族連れの人々がこぞって記念写真の撮影に興じていた。外国人も少なくなく、人気の観光スポットになっているらしい。
すっかり日は落ち、台湾名物の夜市へ。さまざまな屋台グルメが楽しめるほか地元の人の交流の場にもなっているようで、道も広く都心とはまた違った賑わいを見せていた。突如上がった大輪の花火に、人々はカメラを向けたり歓声を上げたり、盛り上がりは最高潮となった。