ゴールデンウイーク、生活圏に近く家族が日帰りで行けることから神奈川県丹沢山系の山々に多くの登山者が訪れた。
丹沢山(1567㍍)は中低山に属する山だが、奥は深い。『日本百名山』を書いた深田久弥は、個々の峰というより丹沢山塊全体の立派さから、百名山に丹沢山を入れた。
丹沢山は一般的な大倉尾根ルートで登り4時間半、日帰りで9時間前後は掛かる。そこで高齢者でも登りやすい丹沢山最短ルート、ブナ林が美しい堂平経由で登ることにした。
5月4日の「みどりの日」、登山歴1年半の山仲間とともに清川村塩水橋から4・6㌔の塩水林道を歩き始めた。途中、幾つもの堰堤があり、そこから流れ落ちる水音と新緑の道は歩いているだけで気持ちがいい。
70分ほどで標高877㍍地点の堂平雨量観測所に着いた。標識には「丹沢山2・9㌔、1時間20分」。これはヤビツ峠から大山(1252㍍)への最短ルートとそう変わらない。
木漏れ日が差すスギやヒノキの植林帯を抜けると、丹沢きってのブナ林がある堂平に入る。都会人がよく山に行くのは俗世から離れたいからだが、このルートは驚くほど人がいない。
そして、初めての山は恋人に会いに行くような高揚感がある。地図上のルートを実際に歩いてみると、この時にしか出会えない世界が広がっていたりする。
ブナの大木を見上げると、丸いハート型の若葉がきらきらと揺れ動く。林床にはテンニンソウの群落。時折、木霊するウグイスやキビタキのさえずりが清々しい。
美しいブナ林を抜け、山頂直下の丹沢らしい長い木段を登り切ると、そこは塔ノ岳と蛭ケ岳の中間に位置する丹沢山である。
広々とした眺望の良い平らな原っぱのような山頂は、風もなく穏やか。鳥居のような山頂標識の後ろには残雪の富士山、みやま山荘の周りのヤマザクラには少し花が残っていた。
昼時は宮ケ瀬ダム、蛭ケ岳、塔ノ岳の三方面からひっきりなしに人が登ってくる。疲労は相当なものだろうが、皆、いい顔をしている。
ここで栄養補給し、体力に不安があれば同じルートで下山してもいい。この日は絶好の登山日和、次の塔ノ岳に向かった。富士山、丹沢山塊の峰々を眺めながら、展望の良い木道を歩くのは心地よい。スマホ写真を撮りながら、1時間半かけて塔ノ岳に着いた。
山頂は座る場所もないほど登山者で溢れていた。早々に山頂を後に、延々と木段が続くバカ尾根と呼ばれる大倉尾根を下る。道が徐々に広く緩やかになる標高770㍍辺りから青々としたモミジ街道が広がっていた。癒やしのトンネルである。
この日、スマホの距離計は19・3㌔、3万2千歩。67歳と72歳にはチャレンジングな縦走となったが、新緑のブナの林に始まり、最後は若モミジに癒やされ、ゴールデンウイークの長い一日が終わった。(ペンとカメラ・大石 翠)