親子三代、絆深める
冬の「かまくら」と言えば秋田県横手市が有名だ。ただし、「梵天」と「かまくら」、どちらも小正月行事だが、かまくらの「静」に対し、「動」として熱気がほとばしるのが梵天である。かまくらは2月15・16日、梵天は16日が「梵天コンクール」だった。翌17日には、高さ5メートルを超す豪華絢爛な頭飾りをつけた梵天を「ジョヤサ! ジョヤサ!」の掛け声とともに若衆が約3・3㌔離れた同市大沢の旭岡山神社に奉納した。約300年の歴史を持つエネルギッシュな神事である。
横手市役所本庁舎前に、各町内会などが作った梵天が次々と入場してくる。このコンクールは昭和34年から観光行事として行われ、55年からは地元の子供たちが奉納する「小若ぼんでん」も参加するようになった。若衆はそろいの半纏を着て、重さ30キロ以上の梵天を垂直に立てて進んでくる。時折ほら貝のヴォーという音が響く。
今年は本梵天26本、小若ぼんでん9本、恵比寿俵2個が奉納されたが、本来の姿での4年ぶりの開催であるものの新型コロナの影響が尾を引き例年の約40本に比べ少なかった。古老の話では、最盛期は国鉄や日通など多くの企業梵天を含めて100本ほどに達したこともあるという。各町内会に加え、厄年や還暦を迎えた中学校の同期生などが町内安全、商売繁盛、五穀豊穣、無病息災や厄払いの意味を込め約一カ月かけ梵天を作った。
高さ約4㍍の竿の先に直径90センチの籠を取り付けた梵天は、「さがり」と呼ばれる色鮮やかな布を垂らし、直径約15㌢の太い鉢巻が結ばれる。コンクールでは梵天の出来栄えが競われ、合間には「〽そろた そろたよ 若い衆がそろた」の出だしで始まる『横手ぼんでん唄』も披露された。
旭川町内会の松川長悦さん(77)は「梵天を出して来年50年になる。毎晩集まって梵天を作るのが一年で一番楽しかった。昔は冬場はやることがなく、作っている時には世間話をしたり、あそこの家にいい娘がいるよとなってお嫁さんが見つかったこともあった。情報交換の場でもあった」。
小中学生が作る小若ぼんでんにはこの日13人が参加した。子供と参加した山下登さん(48)は「若い人が伝統文化に触れるのはいいこと」という。一カ月ほど前から町内会館などに集まり梵天を作り始める。梵天唄も歌いほら貝も吹く。「親父の唄を子供のころから聞いていて頭に入っている」という。また、おじいちゃんと息子、孫の三世代が一緒に参加したり婦人会の姿もあった。
暖冬の横手市だったが、16日は平均気温が0・6まで下がり細かい吹雪が吹く時間帯も。最大瞬間風速13㍍の北西の風を記録するほどで、顔を刺すような冬らしい肌寒さも感じたが、白、赤、藍色などの梵天のさがりが風にたなびいて美しい光景をもたらした。香港から来た若いカップルは「本物の雪を見ました。(梵天が)きれいで感動します。いい祭りです」と微笑んだ。(文と写真・伊藤志郎)