ホラ男爵の冒険【サンデー世界日報より】

ホラ男爵の冒険(作・由希)
ホラ男爵の冒険(作・由希)

話したくなる昔ばなし

今回ご紹介するのは、摩訶不思議な冒険談を大真面目に語る、とある男爵の物語です。


あるところに「ホラ男爵」と呼ばれる貴族がいました。大変な話好きで、機会があれば必ず友人知人に自分の「武勇伝」を自慢するのですが、そのどれもこれもが突拍子もないトンデモ話だったため、「ほら吹き」扱いされていたのです
 

例えば、ホラ男爵が大好きな狩りをしていた時、一匹の大きなシカを見つけたことがありました。すでに弾切れだったため、ホラ男爵はとっさにサクランボの種を猟銃に込め、シカの頭に狙いを定めて引き金を引きました。
 

サクランボ弾は見事に命中。けれども威力が弱かったからか、シカは少しよろめいただけで逃げてしまいました。しかし、それから1~2年後、同じ森でホラ男爵が狩りをしていると、頭に立派なサクランボの木を生やしたシカが目の前に現れたのです。木の高さは3㍍ほどで、真っ赤なサクランボがたわわに実っていました。
 

さてはいつぞや撃ち込んだサクランボの種が、シカの頭で成長したのだなと気付いたホラ男爵は、すぐそのシカを仕留めました。「おかげでおいしいシカ肉とサクランボにありつけたのだよ」とホラ男爵は満足そうに笑っていました。
 

奇想天外で、とてもじゃありませんが信じられない話ですよね。ところが男爵の話しぶりがあまりに見事で、話半分に聞いていてもいつの間にか引き込まれてしまい、とうとう最後まで聞かずにはいられないほど熱中してしまうのです。
 

このほかにも、大砲の弾に乗って空を飛んだとか、体が半分になった馬にまたがって戦場を走り回ったとか、信じられない話がたくさんあります。信じるか信じないか、判断には迷うところですが。

【解説】
「ホラ男爵」ことカール・フリードリヒ・ヒエロニムス・ミュンヒハウゼン男爵は、なんと18世紀ドイツに実在した貴族の軍人。やはりこの人物も話術に長けており、自身の体験談を魅力的に話していたそうです。その後、男爵をモデルに複数の人物が小説化。さらに後年、幾つものエピソードが加筆されていきました。でも、まさか「ホラ男爵」も、時代と国を超えて世界中で愛されるようになるとは思っていなかったでしょう。それこそ本人自身が一番の「ホラ」だと驚いてしまうかもしれませんね。(石井孝秀)

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