「権力の中枢」を体感
時は1968年。北朝鮮の特殊部隊は韓国・ソウルにある大統領府「青瓦台」からわずか200メートルの位置に迫っていた。銃撃戦が勃発し多数の犠牲者を出したこの事件、最終的には北のゲリラ部隊を殲滅したが、投降した一人の軍人の言葉に戦慄が走った。青瓦台の構造を完全に把握し、緻密な暗殺作戦を立てていたと話したからだ。
青瓦台は48年に韓国政府が建設して以来、大統領官邸として使用されてきた。屋根に鮮やかな青瓦が用いられていることが名前の由来だ。ソウル市内を見下ろす北岳山の真南に位置し、風水的に非常に縁起が良い地形とされ、古くから王族たちが住んできた場所である。
尹錫悦政権の発足に合わせ、大統領執務室はソウルの龍山に移転された。これにより、青瓦台は一般公開され、誰でも見学することができるようになった。手荷物検査を済ませて敷地内に入ると、あちこちでアジュンマ(韓国語でおばさん)たちがわれ先にと記念撮影に勤しんでいた。
一般公開で観光名所に
今でこそ全国各地から「人生一度は大統領気分を」とアジュンマやアジョシ(韓国語でおじさん)が連日押し掛ける観光名所となったが、冒頭の襲撃未遂事件をはじめ、韓国現代史の光と影、歴代大統領の栄光と没落、そのすべてを青瓦台は見届けてきた。
本館の入り口から足を踏み入れると、赤い絨毯が敷かれ宮殿のような煌びやかな空間に圧倒される。階段の奥の壁には韓半島を描いた巨大な絵が飾られ、来場者を出迎えてくれる。2階に上がると、大統領執務室を覗くことができる。順番待ちの列ができており、ここでは大統領が使っていた机を背景に記念撮影をするのが定番だ。
青瓦台で驚かされるのは細部のこだわりだ。扉のドアノブは精密に金色でコーティングされ、コンセントにまで綺麗な装飾が施されているほど。どこを見ても飽きることがない。
今やソウル屈指の観光名所となった青瓦台。訪れた際は、ガイドブックには載っていないこだわりや歴史をぜひ体感してほしい。 (文と写真・宇野泰弘)