トップ社会教育多様な疑問が発想を広げる 動物福祉に焦点を当てた学校での動物飼育

多様な疑問が発想を広げる 動物福祉に焦点を当てた学校での動物飼育

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官 齋藤博伸氏

講演する文科省初等中等教育局調査官の斎藤博伸氏(研究大会の資料から)

健全な心の成長を深め、科学的な視点を養うことを目指す教育関係者らが集う全国学校飼育動物研究大会が「動物福祉に焦点を当てた学校での動物飼育」と題して開かれた。動物飼育は学校、教育委員会だけでは継続に無理があり、獣医師会、地域との連携が不可欠になってきている。「飼育動物と学校教育」について文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官の齋藤博伸氏が講演した。以下は講演要旨。(太田和宏)

好奇心・探究心も育つ

地域や獣医師などの協力不可欠

子供たちは、じっくりと観察をして言葉にならない体験活動をしている。全国の小学校1、2年生は生活科で動物や植物を育てることが指導要領で規定されている。体験したことによって言葉にはならないものを発見したり、びっくりしたり、情報として多くのことが頭に残っていく。

これを写真に撮ったり、動画化したり、絵に描いたりして伝えていくことで、気付きを深め、考えたり、表現することでコミュニケーションづくり、人と人とのつながり、教育活動になる。「ぼくは~だったけど、あなたはどうだった」という対話が生まれ、深い学びにつながる。

子供たちの飼育活動で一番大切なことは愛着を持つということ。その第一歩が動物に名前を付けること。先生の立場では~やりなさい、と指示を出すこともあるだろうけど、そうした知識はすぐに忘れてしまう。子供たちがやってみたい、こうしたら、どうなるんだろう、という体験を通して得た知識はこれからの人生で“生きて働く知識”になる。

聞いただけだと忘れやすいが、2~3人で協力して飼育すると気付くこと、疑問を持つこと、担任の先生や獣医師に聞くことなどで納得がいき、はがれにくい知識として頭の中に残りやすい。また、図鑑で調べたかったら、すぐに手に取り調べられる。タブレット端末で調べることができる。じっくり観察できるよう飼育ゲージをそばに置いて見ることができる。分からないことを身近にいる獣医師に聞くことができ、その機会が増えるとよい。

物的、空間的、人的支援と言い、これらを準備して授業に臨むと子供たちの資質能力、好奇心・探究心も育って飼育活動を展開していける。自分も知らなかった、絵本や図鑑だけの世界だったものが、動物への愛着が持てるようになり、自分も飼ってみたいなという気持ちが芽生えてくる。教室に安心・安定した基盤が無ければ、資質能力、好奇心探究心が育つようなにはならない。

学習指導要領に「各学校が地域や児童の実態に応じて、適切なものを取り上げる。そのためには身近な環境に生育しているもの。児童が安心して関わることができる。餌やりや清掃など児童の手で管理ができるもの。動物が成長する様子とか特徴が見えやすく、児童の夢が広がり、多様な発想が広がるもの」とある。これらを踏まえながら、どのような動物を育てるのか、各学校で考えていくことになる。

30年くらい前から自然と関わり、昆虫を飼育したり、植物を育てるという体験活動が不足し、生き物の尊さ、自然と接する機会が乏しくなっている。

公教育の中に飼育活動を入れるということの価値、同じように管理しても、学校の授業の中で飼うことによってどんな資質が育っていくのか、どんな子供たちの態度になっていくのか、改めて考えていく必要がある。そのためには、その学校の子供たちの実態や地域の実態、先生が関われる範囲において指導計画を作成することになる。

先生はどのように学習評価していくのか。目標があって、どんな内容を扱って、どんな指導法があって、どのような資質・能力が備わったのか。評価して初めて授業が成り立っている。子供たちに観察カードを書かせたり、飼育活動を見て、どんな資質・能力を身に付けているのか、教師は判断し、定着したかどうか、足りなかったら、補うように声を掛けたりする。

学習指導要領の中で配慮事項として、動物飼育は学校だけでは、なかなか難しいことがある。それぞれの自治体でどう対応しているのか、動物園・獣医師などと、どのように連携しているのか、土日や長期休業時にどのように飼育しているのか、ボランティアを募ったり、学校の教員が持ち回りでやるとか、適切な飼育環境を確保するよう努めている。文科省はさまざまな事案・提案をホームページで公表している。参考にしてほしい。

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