ユニバーサルミュージックの藤倉尚社長、歌手のクリスタル・ケイさんら=3月-14-日、東京都渋谷区(森啓造撮影).jpg)
日本の英語教育では「聞く力」や「話す力」の不足が指摘されており、学校現場では授業準備の負担も課題となっている。こうした中、洋楽シーンをリードしてきたメジャーレコード会社のユニバーサルミュージックはこのほど、洋楽を使った英語教育支援プロジェクトを発表した。
(山田芙珠美)
ヒット曲題材に楽しく学ぶ
「洋楽離れ」に危機感、無償で提供
「私たちは、洋楽を使った英語の副教材を提供することで、英語のハードルを下げ、楽しく学べる環境を生徒に届け、そして教師の負担軽減にもつながるよう、助けになればと思っています」
こう語るのはユニバーサルミュージックの藤倉尚社長。3月14日、東京都渋谷区の中学校で行われた「UMEnglishLab.」(ユーエムイングリッシュラボ、以下「ラボ」)発表イベントには藤倉社長のほか、同社所属の歌手のクリスタル・ケイさんも登場した。
クリスタル・ケイさんは、アメリカ人の父と在日韓国人の母を持ち、日本でアメリカンスクールに通った。親の影響で洋楽に触れ、自然と英語に親しんできた経験を披露。「失敗してもいいからトライしよう。勇気を持って、知ってる単語を使ってみてほしい」とエールを送った。
中学校の体育館で生徒約90人を対象にした説明会の後、場所を教室に移し、生徒約30人を対象に音楽教材を用いた授業のデモンストレーションが公開された。
授業では、「洋楽を深読みして歌えるようになろう」をテーマに、米国の人気アーティスト、レディー・ガガの2011年のヒット曲「ボーン・ディス・ウェイ」を使用した。生徒たちは歌詞を深く理解し、発音や表現のポイントを学びながら、楽しく英語に触れた。
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授業に参加した男子生徒は、「最後の方には歌詞が聞き取れるようになって嬉(うれ)しかったです」と笑顔で話し、取り組みの効果を実感した様子だった。
同校の3年生2クラスを対象に実施した授業アンケートでは、約9割の生徒が「満足した」「理解できた」と回答。英語学習に対する興味、洋楽に対する興味についてのいずれの問いでも「もともと興味があり、より興味を持った」「もともと興味はなかったが、興味を持った」が合計で7割に達した。
自由回答では「国の文化も理解できるし、音楽を通して勉強ができるとても良いものだと考えた」や「音のつながりを意識するだけで、すぐ聞き取れるようになっておもしろかった」などの好意的な声も寄せられた。加えて、近年の学校を対象にしたアンケートでは、96%の生徒が「洋画・洋楽を使用した授業は楽しい」と回答しており、今回のプロジェクトも生徒たちの関心を引きつける可能性が高いことが示された。
従来の英語教育では、ビートルズやカーペンターズなどの往年の楽曲が使われることが多かったが、ラボではテイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュなど、若年層に絶大な人気がある現代のアーティストの楽曲を積極的に取り入れる。ユニバーサルミュージックがプロジェクトを立ち上げた背景の一つには、日本人の「洋楽離れ」がある。藤倉社長は「日本の音楽産業にとって危機的な状況で、われわれにとっても経営課題の一つだ」と話す。英語学習の入り口として若年層が入りやすい洋楽をテーマにした副教材は、授業準備の負担軽減や教員の支援にもつながる。
ラボは、洋楽を通じた英語教育に関するウェブサイトを立ち上げ、全国の学校へ副教材を提供する。音楽を通じた新たな学びが、日本の英語教育にどのような変化をもたらすのか、注目される。