県立美術館など4会場で開催

一学年が100人ほどの小規模大学でありながら、意欲的な芸術の在り方を追い求めている秋田公立美術大学(秋田市にキャンパス)の卒業・修了展がこのほど5日間にわたって開かれた。「かけて、たして、ひいて、わって」と題して、秋田県立美術館や秋田市文化創造館など4会場で行われ、生徒の自主的かつ独創的な作品が数多く見られた。(伊藤志郎)
ものづくりから景観、映像まで
テーマ・表現方法など多様
同大学は昭和27年秋田市立工芸学校(修業2年)として設立され、短大を経て平成25年に現在の秋田公立美術大学として開学した。3~4年次には素材や技法によらない、既存の美術大学とは異なる区分の専攻構成を持つ。
専攻は、アーツ&ルーツ専攻、絵画・彫刻・メディアアートなどのビジュアルアーツ専攻、ものづくりデザイン専攻、コミュニケーションデザイン専攻、景観デザイン専攻の五つと、複合芸術研究科がある。
一般的な美術展は日本画、洋画、彫刻、工芸、写真、映像といったものを展示している。だが、秋田公立美大の作品発表はそれらを含むが、複合的に関わり合った、さらに言えば学生自身の表現媒体としての芸術、という視点が強い印象を覚えた。
全作品を鑑賞したわけではないが<自分にとって芸術とは何か>を追い求めた記録のコメントが心に残った。出品者の一人は「中高生の時、美術はいい点数をとる手段であり心から好きではなかった。大学から近い秋田市新屋(あらや)の海岸に行き、打ち寄せる波の激しさ、海と空の広さに感動し絵をスケッチした。描きたいと思った」と吐露する。
このような自己探求の「旅」をテーマにした作品が幾つかあった。原稿用紙400枚に一言添えたペン画(インク・水彩)も迫力がある。中には、清朝時代から1000年続く自身の族譜(家系図)を持っているが、そこに一人も女性が登場しないことに気付き、11人の女性のインタビューと肖像写真を記録し、自らのルーツを探し求めた作品もあった。

六つある専攻のうち、景観デザインは記者にとって、街の再生が主なテーマとなっており、いつも関心が高い出品作だ。一つの建物、区域、街全体と、扱う範囲はさまざまである。
大曲(おおまがり)に近い千畑(せんはた)の「生保内(おぼない)街道沿い6地域の文化圏まちづくり構想」(藤原さん)では、街の歴史を踏まえ写真と地図で全体を現し、こども園と小学校・図書館を網羅した施設を提案した。
一方では、仙台市の歴史の跡をまとめた作品があった。江戸期の町割を紹介し、ここ20年で書店が127から36にまで激減した状況から、「仙台の文化的交点」を提案していた。熱心に写真を撮る男性に話しかけると、20年前まで仙台で暮らしていたという。会場で4年前の卒業生に話を聞いた。「ものづくりデザイン専攻」にいた男性は、主に木の棚を作っていた。
「アニメのキャラクターからゲーム、映像、10㍍以上もある布、巨大な赤ちゃん、明るさを調整できる照明器具、漆を塗ったスケートボードなど、テーマも素材も表現方法も多様で、なんでもありなのかと思った」と率直に記者の感想を話したら、「大学としては放任ではなく、作品が何を目的としたものなのか、制作の進展状況を踏まえつつ技術的にアドバイスしていくプロセスを取る」という。
「1、2年は美術の基礎や関心ある素材でものづくりをする。それから専攻に分かれ、学生の自主的な意欲を尊重していく。学年や専攻ごとの発表会も随時開かれ、互いに触発されることもある。例えば家具を作っていて景観にどう生かすか、表現映像を作るにはどうすればいいかと思ったら、専攻の領域を超えた教授に聞くこともできる」という。