東京都獣医師会副会長の中川清志氏

健全な心の成長を深め、科学的な視点を養うことを目指す教育関係者らが集う全国学校飼育動物研究大会が「動物福祉に視点を当てた学校での動物飼育」と題して開かれた。動物飼育は学校、教育委員会だけでは継続することに無理があり、獣医師会、地域住民との連携・理解が不可欠になってきている。「動物愛護と学校教育」に関して東京都獣医師会副会長の中川清志氏が講演した。以下は講演要旨。(太田和宏)
涯飼育で生老病死学ぶ
“非終生動物”は苦痛軽減を
動物愛護とは何かというと、「主観的、感情的であり、かわいらしい存在を弱者と見立て強い立場の存在から守ろうとする目線」「自分が愛好する動物だけを対象にした感情」(『日本の動物政策』打越綾子著・ナカニシヤ出版)と言われている。
生類とは、人から見て類縁感情に根差す概念で、あくまで人間本位の見方。「禽獣(きんじゅう)虫魚草木に至るまで、ひろく憐(あわ)れむべし。是等は天地の内に生ずる物にして、もとは一気なれば同類の思いをなして、みだりにそこなうべからず」(貝原益軒『大和俗訓』)。人が情を通わせ合う程度に応じて、獣類ついで鳥類を中核とし、魚類・虫類にも及ぶところがあり、一般には植物を含まない。人自体さえ、時に生類概念の範囲外のように解されることがある。
動物愛護とは何か、一部の国民の間には間違った理解やイメージが流布しており、冷静かつ客観的なものに変えていく必要がある。動物の命と人の命を対等に扱おうとする考え方をするものではない。動物は他の生物の命を犠牲にしなければ生きていけないものであり、動物を殺すことや利用することを否定するものではない。しかし、犠牲にすることを当然のこととして動物の命を軽視してはならないものである。
また、対象動物の違いによって「愛護」の具体的な形や方向性は変化する。家庭で飼う動物・動物園などの展示飼育では、より良い生活環境を維持していくことが求められる。実験動物・畜産動物など非終生飼育される動物は苦痛軽減、有効利用等といったマイナス要因の排除が基本。学校で動物を飼うことは命の尊さを学ぶ良い機会であり、また、死を学ぶ良い機会でもある。
国際獣疫事務局(WOAH)による適正飼育の根本となる概念アニマルウェルフェアとは、科学的、倫理的、経済的、文化的、社会的、宗教的、政治的側面を持つ複雑で多面的な主題。動物が生活および死亡する環境と関連する動物の身体的および心理的状態を言う。疫病予防と適切な獣医療、避難所、管理と栄養、刺激的で安全な環境、人道的な取り扱い、人道的な屠殺(とさつ)または安楽死が必要だという。

五つの自由について①飢え、渇きからの自由:種類や成長段階に合わせた適切な食餌、新鮮できれいな水が必要な時に取れる、ペットボトルなどは放置すると腐ることも、動物の種類を考えて②暑熱や不快感からの自由:清潔で安全、快適な飼育場所を用意、動物が快適に過ごせるようにする③痛み、負傷、病気からの自由:けがや病気の場合には獣医師の判断を受けて適切に処置する、病気の予防に心掛け、健康状態をチェックする④本来の行動がとれる自由:それぞれの動物が本能や個性に合った動物本来の行動がとれるよう工夫する、繁殖管理など人が適正に管理する⑤恐怖・抑圧からの自由:動物が恐怖や抑圧を受け、精神的な苦痛や不安の兆候を示さないよう対応する――となっている。
獣医師の立場から学校の先生に気にしていただきたいことは、子供たちが可愛(かわい)がっている動物だが、寿命が尽きれば必ず死ぬ、注意していても事故は起きる、病気で死んでしまうこともある。先生たちにとって子供の悲しむ姿は心苦しいことではあるが、それらの出来事は、生老病死を実感できる機会だ。子供たちの帰り道などの交通安全、注意につなげてほしい。暑さや寒さ、飢えた上で餓死したら、子供たちにどのように伝えるか。簡単に「死にました」と伝えるだけでなく「子供たちにお世話してもらい、可愛がってもらい、幸せだった」と言えるように、日ごろから動物愛護の精神に則(のっと)り、飼育活動に取り組んでもらいたい。