
北海道では近年、エゾシカやヒグマなどの野生動物が増加傾向にあり、それに伴って農作物への被害や交通事故の多発が報告されている。その一方で、有害野生動物を捕獲する狩猟者(ハンター)の高齢化が指摘され、若手ハンターの育成が急務となっている。そうした中で、北海道環境生活部はこのほど、狩猟の魅力を発信し、野生鳥獣対策の担い手、特に若い世代を対象にした狩猟フォーラムを開催した。(札幌支局・湯朝肇)
命ある生物と向き合う最前線
趣味とは違う厳しさ・緊張感
「狩猟といっても無制限に捕獲できるわけではありません。捕獲できる場所や動物の種類など非常に厳しい制約の中で狩猟を行っています。それでも狩猟は命ある自然の生き物と向き合うことのできる最前線。単なる自然散策ではない狩猟から奥深い自然の営みを知ることができます」――こう語るのは旭川市役所の職員で狩猟歴6年の橋口城児さん。2月1日、札幌市内で開かれた「ほっかいどう狩猟フォーラム」(北海道環境生活部主催)のパネリストの一人として参加した橋口さんは、ハンターになったきっかけ、日ごろの生活、狩猟の魅力などについて語った。
この日のフォーラムは第一部として、「狩猟のはじめ方」、「札幌市の野生鳥獣対策」、「ハンターの普段のお仕事」をテーマにした講演の後、第二部として若手ハンターによるトークセッションが持たれた。会場内には狩猟免許・猟銃所持に興味のある人向けの相談コーナーやハンティング模擬体験、野生鳥獣肉(ジビエ)料理の試食会、ハンターが使う罠(わな)や猟銃の紹介などのブースが設置され、道内から約200人が集まった。
に触れての体験.jpg)
今回のフォーラムの目的は、「何よりも若い世代に狩猟の魅力を知ってもらい、狩猟免許取得への関心を持ってもらうこと。そのきっかけ作りになってもらえればうれしい」(道環境生活部野生動物対策課の車田利夫さん)と同フォーラムの趣旨を語る。というのも、狩猟に対しては、一般市民にはそれほど馴染(なじ)みがないのも事実。道によれば、狩猟免許の所持人数はピークの1978年には約2万人いたが、2006年には8000人に落ち込んだ。現在では反転して少しずつ増え、1万3000人ほどになっているという。
ただ、このところの市街地に出没するヒグマの増加に対して、ハンターの高齢化が進んでいる昨今、若手ハンターの育成は急務というのが実情だ。「幸い、近年の傾向として狩猟免許の申請者を年代別にみると、20代から40代で半数近くを占め、50代まで含めると70%を超えています。若い人の関心も高くなっている」(車田さん)と若手増加の感触を述べる。この日のフォーラムでは、狩猟に使う道具(銃の種類、罠、網)の説明から所持許可を申請する際に必要な書類、手順などについて説明があり、さらに銃を所持する際の費用、手続きなども説明していた。
一方、若手ハンター4人によるトークセッションでは、狩猟の魅力について言及。「平日は都会のビルの谷間で仕事をし、週末には山に入って猟をする。都会とは違った魅力がある。アルカリイオンをいっぱい浴びた感じになる」(映像カメラマンの道上綾子さん)、「山に入って野生動物を追うと、笹の葉一枚の音にも敏感になる。五感が鋭くなっていく中で野生動物に対峙(たいじ)している時のわくわく感がある」(地域おこし協力隊で有害駆除に従事している高崎梨徒さん)、「ハンター仲間と一緒に猟を行っているが、そこでの一体感、また、獲った獲物を食する感動はレストランで食べた時とは全く違うものがある」(松倉英美さん)といった体験談を語る。
フォーラムの中で「ひと口に狩猟と言っても、趣味としての狩猟と有害動物の駆除という観点からの狩猟では、向き合う姿勢も違ってくる。だが、大自然の中で命ある生態系と向き合う中から教えられることも多い」と語っていた一人のハンターの言葉が印象的だった。