トップ社会教育本気で考えよう移植ドナー不足 医療関係者が沖縄大学でシンポジウム 

本気で考えよう移植ドナー不足 医療関係者が沖縄大学でシンポジウム 

シンポジウムの出席者。左上から時計回りに仲間貴亨氏、司会者の島田尚徳氏、吉川麻衣子氏、富山侑美氏=沖縄大学地域研究所ユーチューブより

臓器移植におけるドナー(臓器提供者)不足の問題について考えるオンラインシンポジウムがこのほど、沖縄県の沖縄大学で行われた。同大学教授や県内の医療福祉関係者らが登壇し、沖縄県における臓器提供の現状や課題などについて議論を深めた。
(沖縄支局・川瀬裕也)

脳死に法・倫理的な問題も 富山氏

難しい家族間の意見集約 吉川氏

不可の場合も意思表示を 仲間氏

日本の臓器移植件数は、諸外国と比べ極端に低いとされる。根本原因となっているのが深刻なドナー不足だ。臓器提供を受け入れる医療施設が限られていることや、脳死と「人の死」に関する議論で意見が、宗教的・倫理的、法的な観点から分かれている点などが理由とされている。

2010年の臓器移植法改正により、本人の意思が不明な場合でも家族の同意・承諾があれば臓器提供が可能となったことで件数は飛躍的に増えた。しかし公益社団法人日本臓器移植ネットワーク(JOT)に登録している移植希望患者約1万7000人のうち、国内で受けられる人の割合はいまだ全体の5%に満たない現状となっている。

沖縄大学は24年度、県内での同問題を研究するプロジェクトチームを設置。法学・行政学・倫理学の観点から、「家族の同意」をテーマに県内での臓器提供推進の取り組みを分析し、政策提言を行うことを目指している。

同研究のプロジェクトリーダーを務める、同大学経法商学部専任講師の富山侑美氏は、臓器移植医療におけるドナーの摘出手術の最大の問題点について、医療行為に対する患者本人の同意(インフォームドコンセント)が得られない場合が多いことだと指摘。

脳幹を含む脳内すべての機能が失われた状態を指す「脳死」のドナーについて、脳死を「人の死」とするか否かで殺人罪の問題に発展するため、「法的にも倫理的にも大きな問題を抱えている」と語った。現在、臓器移植法上、臓器提供者の脳死のみが「人の死」と定められていることについて、「『死』を個人が選択できる不自然な状態にある」と問題視した。

また、ドナー本人が提供の意思表示をしていた場合でも、家族の意思決定が必要となる現行の法制度が家族に心理的負担を負わせている点や、ドナーの生死を家族が決めることの倫理的問題点についても検証が必要だと語った。

同研究チームは、これらの「家族のインフォームドコンセント」を主軸に、市民を対象に臓器提供を巡る意思決定に関する心理実験などを実施。

同実験を担当した同大学人文学部の吉川麻衣子教授は、心理実験の被験者たちの「移植を受けた方がその後どのような人生を歩んだかを知りたい」「家族で意見が分かれた場合、本当に決断が難しい」などの声を紹介し、「このような(心理実験の)経験をする人が増えれば、臓器移植を身近なものとして考えられるようになるのでは」と実験の意義を語った。

沖縄県保健医療福祉事業団で臓器移植コーディネーターを務める仲間貴亨氏は、20年度に県民を対象に実施したアンケート結果で、臓器移植に関心があると答えた人の割合が全国平均(17年度)に比べ6・4%高かったことを明かした。

臓器提供について意思表示ができることを知っている人は94・6%に上り、免許証や保険証などで意思表示をしている人は27・1%と、全国平均(12・7%)の倍以上となっている。実際に沖縄県は1994年の献腎移植数で全国1位を記録するなど、人口比におけるドナーが多い県として知られる。

一方で仲間氏は、意思表示の認知度は9割を超えているのに対し、実際の意思表示率が3割に満たない現状について、「全国的に見ると沖縄は(意思表示率が)高いが、比率自体は多くはない」として、さらなる啓発活動の重要性を強調。「臓器提供をしたくない権利もしっかり尊重されている」とした上で、「臓器提供の可否をしっかり意思表示した上で、ご家族と自身の死について話をしてみてほしい」と呼び掛けた。

シンポジウムではこのほか、脳死状態の患者の家族へ、臓器提供を提案する医療関係者側の心理的負担の軽減策や、家族間で意見が割れるなどのトラブルが起こった際の対処方法などについて議論が交わされた。

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