
沖縄県の沖縄大学はこのほど、子供の貧困問題について考えるシンポジウム「沖縄の子どもの貧困対策の到達点とこれから~10年目に向けて私たちが取り組むべきこと~」を対面とオンラインのウェビナーによるハイブリッド形式で開催した。衆院議員の島尻安伊子氏が講演したほか、子供支援の現場に接する有識者らが登壇し、沖縄における子供の貧困対策について意見を交わした。(沖縄支局・川瀬裕也)
環境整備は政治の責任 島尻氏
津嘉山氏 切れ目ない支援継続を
子供の貧困は、18歳未満の子供が、栄養バランスの取れた食事や教育の機会均等が得られないなど、健やかな成長に必要な生活環境が確保されていない状態にあることを指摘する。貧困状態が続くことにより、子供たちが教育や社会経験などの機会を失い、学力不足に陥ったり、精神的に未熟なまま大人になることで、低所得あるいは所得のない生活を送るようになる負の連鎖を引き起こすことが指摘されている。
同問題は全国的に大きな課題となっているが、その中でも沖縄では全国平均の約2倍近い貧困率が続いており、深刻な問題となっている。
これらの問題を受け内閣府は2015年、全国に先駆け、沖縄で「子どもの貧困緊急対策事業」を始動。国が予算を全額負担する異例の支援措置が取られた。沖縄大学は同事業と連携し、貧困の実態調査や、支援員の養成、居場所づくりの推進などを実施してきた。同大学地域研究所長で人文学部教授の島村聡氏は、「貧困は経済・家庭・社会の連鎖の中で発生している」と、原因の複雑さを指摘した上で、「まずは子供たちから支援して、彼ら自身が(現状を)変えていける力を付けてほしい」と、事業に携わってきたと説明。「10年間の成果と課題を議論し、(同事業の)重要性を改めて確認したい」とシンポ開催の意義を語った。
続いて、元沖縄・北方担当相として同事業の立ち上げに携わった島尻氏が登壇し講演を行った。島尻氏は、貧困状態にある県内の若年妊産婦と対談したエピソードを紹介し、「新たに生まれてくる子供がすくすくと育っていける環境を整えるのは政治の当然の責任だ」との強い思いが、同事業立ち上げの一つの要因だったと振り返った。

子供の居場所事業などを運営する株式会社アソシアの津嘉山拡大さんは、高校中退者を企業や支援団体につなげ、就職を支援するなどの独自の取り組みを紹介。支援をしながら見えてきた課題について、中学を卒業した後に支援が途切れてしまうケースが多いことを挙げ、「切れ目のない」教育機会の保障と居場所の提供が重要だと呼び掛けた。
地域と連携しながら子供の学習支援などに取り組む一般社団法人くじら寺子屋(沖縄市)の山下千裕代表は、子供にとって「『おかえり』と言ってくれる人(スタッフ)がいる場所が本当の居場所だと思ってもらえるのではないか」との思いから、子供と支援者の関係性づくりに重きを置いていると説明。「卒業した子供たちも支援員に顔を見せに来る」と明かし、「行政や地域の人とも一緒に、子供の集まれる場所を作っていきたい」と語った。
NPO法人沖縄青少年自立援助センターちゅらゆいの金城隆一代表は、戦後沖縄が日本に復帰するまで児童や社会保障の制度が無かったことなど、沖縄独自の原因に起因する貧困問題があると指摘。また「働いている大人を見ずに育った子供たちが、文化的貧困の連鎖から抜け出せずにいる」と問題視した。
政府は昨年12月、25年度沖縄関係予算案を2642億円で閣議決定した。その中で子供の貧困対策などが盛り込まれた沖縄振興特定事業推進費には当初予算で過去最高の95億円が計上され、さらなる支援の拡充が期待される。
県民1人当たりの賃金が全国最下位であるにもかかわらず、住宅や食品、生活用品などの物価は東京並みに高い沖縄において、子供たちが負の連鎖から抜け出すためには、行政と民間が連携した適切な支援が必要不可欠であることが再確認された。