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モルモット飼育で情操育む

全国学校飼育動物研究大会

福井市立宝永小学校の山本祐子教諭

講演する福井市立宝永小学校の山本祐子教諭

健全な心の成長を深め、科学的な視点を養うことを目指す教育関係者らが集う全国学校飼育動物研究大会が「動物福祉に視点を当てた学校での動物飼育」と題して開かれた。動物飼育は学校、教育委員会だけでは継続に無理があり、獣医師会、地域との連携が不可欠になってきている。「学校飼育動物が児童に与える影響」と題して福井県福井市立宝永小学校の山本祐子教諭が口頭発表した。以下は講演要旨。(太田和宏)

自信と共に落ち着き

自閉症・不安障害克服も

宝永小学校は明治20年に創設された歴史のある学校。福井駅前の近くにあり、全校児童が200人、教職員17人。比較的に裕福な家庭の子供が通っている。

私が飼育動物に関わるようになったのは令和元年に2年生の担任になった時から。2年生の生活科の学習の一環でモルモットを飼育してきた。生き物や虫が苦手で、動物を飼育したこともなく、不安でいっぱいだった。学校担当の獣医師が前向きに指導してくれ、励ましてくれたので何とかやり遂げられた。

初めて1年生を受け持つようになったクラスは32人の1学年単学級だった。その時の新入生はコロナ禍によって幼稚園・保育園の年中、年長と園に通えなかった学年だった。そういった関係でクラスメートと上手に会話ができない子が多かった。

自閉スペクトラム症、発達障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の児童が5人いた。その中でもH君は、自閉症と不安障害を持っていた。特別支援学級との間で行き来する児童だった。学校に来るのも不安で、毎日泣きながら登校していた。周囲の子供たちも自分のことで精いっぱいで、他の子のことまで、気に掛けられない。気になっても、どう関わっていいのか分からなかった。

そんな中、学校飼育動物の導入を決めた。子供たちはワクワクしていた。初めて見る、かわいくてフワフワしているモルモットにテンションが上がっている子もいた。休み時間になると皆が集まってきて、ちょっとでも見ようとする。他の学年の児童も続々と見に来てくれ、“先輩”からいろんなことを教えてもらったり、異学年交流も行えた。

導入日の翌日から飼育当番の活動が始まった。2時間目と3時間目の間に20分間の長い休み時間がある。その時間に当番活動をしていた。毎日3人ずつ交代して担当していた。H君の変容が見られたのは、当番活動をするようになってからだ。それまで、一方的に話をするか、独り言でブツブツ言うかだった。初めて一緒に当番活動している友達に「ぼくは、何をしたらいい?」と話し掛けた。初めてのコミュニケーションだったので、友達もビックリした様子だった。友達から「じゃあ、こうしてくれる?」と言われ、そのことをこなしてその日の当番活動が終わった。

これが、H君の自信になったようで、休み時間にも、他の友達に話し掛けたり、一緒に遊んだりすることが増えた。「家でゲームばかりしていたが、学校から帰って、友達と遊ぶようになった」とH君のお母さんから連絡があった。

H君が入学した時からできるようになりたい目標にしていたことが「困ったときに援助要求する」ということだった。自信から友達との信頼関係が出来上がり、手を挙げて援助要求できるようになった。「先生、分かりません、一緒にやって、教えてください」と自分から言えるようになった。H君の中でなんとなく不安な時があれば、モルモットを眺めて過ごしたり、お世話をしているところを見ていたり、落ち着いて、穏やかに過ごせるようになった。

モルモットのモコちゃんは「怖がりで大きな音が苦手だ」と獣医師から聞くと、誰かが大きな声を出すと「シー!モコちゃんが怖がっちゃうよ!」という注意があったり、モコちゃんのおかげで、温かい雰囲気に包まれ、静かに過ごせるクラスに成長した。

土日はホームステイということで児童の家庭に預かってもらっている。家庭によってはできない、飼育ケージを置けない、乳児や介護老人がいるなどで無理な所もある。協力してもらえる家庭のみで金曜に受け取りに来てもらい、月曜の朝に返してもらう。夏休み・冬休みの長期休業の時も3日ずつ児童の家庭に預かってもらっている。年末年始などは1週間ごとになる所もある。

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