
子供を自然・文化の継承者に 盛口氏
小学校での教育実践を模索 上原氏
大学のない離島地域の子供たちに教育の機会を提供するための研究を進める沖縄県の沖縄大学はこのほど、第4回地域研究公開講座「離島のこどもたちと教育」をオンラインのウェビナー形式で開催した。同大学子ども文化学科の盛口満教授らが登壇し、離島における新たな教育のあり方について議論を深めた。(沖縄支局・川瀬裕也)
多くの離島を抱える沖縄県において、離島での教育機会確保は長年の課題として議論されてきた。沖縄本島以外の離島には大学がなく、石垣島・宮古島・久米島以外の離島には高校も存在していない。そのため、これらの島の子供たちは中学卒業と同時に、親元を離れ、他島の高校へ進学しなければならない。
同大学は「地域との連携」をテーマに、離島で暮らす子供たちへ教育の機会を提供する方法について研究を続けてきた。その一環として、沖縄本島の大学生と離島の子供たちをつなげる交流事業を展開している。
シンポジウムで初めに登壇した同大学の盛口教授は、八重山諸島の竹富町立古見小学校が今年3月、少子化に伴い廃校となり、7㌔離れた同町立大原小学校に統合された事例を紹介。「離島の集落ごとの文化や自然を学び、伝えていく人々に当たる子供たちが地域からいなくなってしまっている」ことを問題視し、「子供たちがいなくなっている地域や、子供たちが残っていても、地域の伝統や自然と切り離されつつある中で、われわれに何ができるか、研究の背景にある」と述べた。
その上で、「子供たちが島を出ていく前に、島の自然や文化に興味を持ってもらい、いずれ彼らが島に戻って、それらを継承してくれること」を願って、2011年から、石垣島・白保集落の子供たちと、同大学の学生たちの交流事業を開始したことの意義を語った。
続いて、同大学地域研究所の特別研究員を務める後藤亜樹氏が活動報告を行った。観光客などが海での体験活動を楽しんでいる一方で、地元の子供たちが、地域の海で遊んでいない現状があったと明かした上で、同大学の学生をリーダーにしたキャンプなどの環境教育プログラムを実施することになったと説明。魚釣りや、サンゴ礁の観察、ウミガメの生体クイズなど、地域の自然に密着した活動などを紹介した。
小学生の頃にキャンプに参加した経験を持ち、今年は学生側として参加した、白保集落出身の同大生・多宇諒真さんのインタビューも紹介された。インタビューの中で多宇さんは、小学生の頃に同プログラムで大学生らと夜光貝アクセサリーを制作したことや、伝統的な「八角凧(だこ)」を作った思い出が今でも印象に残っていると振り返り、「さまざまなことが体験できて楽しかった」ことがきっかけで、教育に関心を持つようになったと語った。
11年から14年間続く同プログラムについて、後藤氏は「今一番の課題は世代交代だ」として、「今後は地域の皆さんと一緒に、活動を続けていけるかが重要だ」と語り、地元主体での活動の継続に期待をにじませた。
同大学の上原周子教授は、大学生の教育実習の場として離島が持つ可能性に着目し、石垣島の学童施設「そらとかぜ」で昨年から実施している交流会の活動を紹介した。

上原氏は、「子供たちが楽しみつつ、学びや気付きを得られるよう学生たちと工夫を凝らして準備した」と活動をアピール、今後に向けて「離島の自然や文化の多様性を生かした教育実践を模索していきたい」と語った。交流会に参加した上原ゼミの学生は、「来年も行きたいし、行くだけではなく、他の方法でもつながりたい」と感想を寄せた。

盛口氏は「県出身の大学生でも、離島に住んでいる子供たちと接する機会は少ない」として、これらのプログラムで得た経験が「小学校の教員になった時に大きな財産になる」と総括した。
教員を目指す同大学の学生たちが、大学のない離島を舞台に教育実践をすることで、沖縄での新たな教育のあり方が見つかりつつある。今後の同大学のさらなる研究に注目が集まる。