北海道博物館で「北海道のお葬式」企画展
墓石の代わりに樹木を墓標とする「樹木葬」、家族など少数で行う「家族葬」、さらに「火葬」のみで葬儀を済ませる「直葬」など近年、葬式の形態が大きく変わりつつある。北海道博物館では「北海道のお葬式」をテーマにした企画展を開催している。その内容は近代以降のアイヌの人々が行っていた「葬式」と本州から移住してきた人たちの「葬式」の違い。両者の「弔い」の儀式を見ることで、両者の文化の側面が見えてくる。(札幌支局・湯朝肇)
「和人」の影響にも焦点
「こちらは、アイヌの人々の脚絆(きゃはん)と手甲です。実際に日常で使っていたものに比べて、埋葬されるものは小さいでしょう」――こう語るのは、北海道博物館学芸員の亀丸由紀子さん。
北海道博物館では10月26日から来年1月13日までの期間、「北海道のお葬式」をテーマにした企画展を行っている。企画展が始まる前日の10月25日、報道陣向けに企画説明会が行われ、亀丸さんがアイヌの葬式について説明してくれた。ちなみに、脚絆とは足の甲や脛に着ける脚衣、手甲とは腕から手の甲まで覆う布のこと。狩りや農作業を主ななりわいとするアイヌの人々にとって脚絆や手甲は生活する上で必需品であった。それは亡くなって「あの世」の世界に行っても同じように必需品であるとの思いから死者のために死装束の一つとして埋葬したのである。
今回の企画展の内容は主に二つに分けられる。一つが「アイヌのお葬式」、そしてもう一つが「和人のお葬式」。この中で、前者のアイヌの葬式では、荷縄や靴、耳飾りなど埋葬時に添える品々や道具のほかに、葬式に関する写真や文書記録などが展示されているのに対し、和人いわゆる明治以降に本州から移住してきた日本人の葬式では、実際に使われた木造の輿(こし)や旗などの他に、葬式の際に撮った写真や香典帳、買い物帳、葬列帳などが並ぶ。ただ、展示スペースを見ると圧倒的に「アイヌのお葬式」が広いように感じる。
これについて、「和人のお葬式」を担当した学芸主査の尾曲香織さんは、「残念ながら当館には本州以南から移住してきた人々の葬式に関するものはほとんど残されていません。辛うじて個人が寄贈してくださった参列者の衣装や寺に残された葬式の道具ですが、これは、死者のものを残すのは、『縁起が悪い』といった習慣によるものだと思います。一方、葬式に関連した香典帳や葬列帳といった文書や記録書は多く残されており、残された人々のつながりを記録して残すことを重視したものと言えます」と説明する。
今回の企画展は、人の「死」に関わる重くて地味なテーマを取り上げているが、今回の企画の狙いについて亀丸さんは次のように語る。
「人の『死』は、誰もが経験するものなのに、それに関わる『お葬式』については、その意義や順序、歴史については分からないことが多いのではないでしょうか。まして、先住民族の『お葬式』となればなおさらのこと。今回は、北海道における近代以降の『お葬式』に焦点を当て、アイヌと本州以南の移住者による葬式がどのように行われてきたか、について、当館に残された資料を基に紹介しています」と説明した。
その上で、「これまではアイヌの葬式を対象にした研究の大半は、和人の文化の影響を受けていない『伝統的』な姿を記録することを目的としてきました。ただ、和人の影響を強く受けてきた地域での葬式で、どのような葬式が行われてきたのかといった点の調査研究はあまりありません。今回は、研究が見逃されてきた『空白』『混交』部分にも焦点を当てて展示しています」と強調する。
確かに、人の「死」に対する捉え方は、地域あるいは民族の文化を形成する上で重要な要素となっている。しっかりとした死生観を持つことの重要性が叫ばれる昨今、北海道においても先住民であるアイヌの人々の世界観、また明治以降、北海道の開拓者が有していた死者への尊厳をうかがい知ることは極めて有意義なことであろう。