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不登校経験者や、義務教育未修了者たちの学び直しの場としての役割を担う「夜間中学」について考えるシンポジウム「那覇市での県立夜間中学開設を考えるこんばんはⅡ上映会」(共催=沖縄大学、夜間中学校と教育を語る会)がこのほど、沖縄大学で開かれた。夜間中学元教員の関本保孝氏らが登壇し、県立夜間中学の設置を訴えた。(沖縄支局・川瀬裕也)
不登校経験者や義務教育未修了者ら対象に
「国、県の責任で」と元教員ら
問われる行政の本気度
夜間中学は、義務教育を十分に受けられなかった人々のため、戦後始まった制度で、「義務教育機会確保法」には、義務教育未修了者が、年齢・国籍その他の置かれている事情にかかわらず教育機会が確保されるようにするため、国・地方自治体は施策を実施する責務があると明記されている。
政府は2026年までにすべての都道府県・指定都市への夜間中学設置を目指しており、現在全国17都道府県に44校設置されているが沖縄では公立の夜間中学の設置は、いまだなされていない。
シンポジウムでは冒頭、夜間中学に通う生徒らに密着したドキュメンタリー映画「こんばんはⅡ」が上映された。映画の中では、貧困や不登校などで教育の機会を逃した人々が、夜間中学に通いながら、失った可能性や諦めていた生活を少しずつ取り戻していく様子が描かれている。
次に、主催者で長年夜間中学の教員を務めた関本氏が「2016年義務教育機会確保法成立と国の夜間中学増設方針、そして沖縄の動向」と題して講演した。
関本氏は、同法案成立後「全国で夜間中学の開設が前進している」と前向きに捉えつつも、20年の国勢調査のデータを例に挙げ、沖縄県の「未就学者」が、全都道府県の中で最も多い2391人だったとし、「これだけ多くの方々が沖縄にいることは(県内で早期開設する)大きな意味がある」と、重要性を訴えた。
この問題について那覇市議会は、20年に市長および同市教育委員会教育長宛で「那覇市立夜間中学(学級)の設置に向けての決議」を全会一致で提出。その後、今年2月には「県立の夜間中学を那覇市に設置する」提言書をまとめている。
このような動きの中で、自主的に夜間中学運営に取り組むNPO法人「珊瑚舎スコーレ」が、県の認可を受け、来年度から全国初の私学の夜間中学として正式に発足する。これについて関本氏は「大きな前進だと思う」としながらも、「やはり財政力も限られるし、(定員が)7人のみだ」として、「国、県の責任で一日も早い公立校をぜひともつくってもらいたい」と訴えた。
このほか、沖縄出身で、東京で夜間中学を卒業した新崎康文さんが感謝の思いをスピーチした。小さい頃から貧しく勉強も好きではなかった新崎さんは、小学校4年生の頃から養護学級のクラスに移され、さらに勉強に後れを取ってしまった。
何とか中学を卒業した後、兄を頼り上京するも、そこで、仕事をしながら、「言葉の壁」にぶつかるようになったという。手紙が来ても自分で返事が書けないなど、もどかしい日々を過ごしていた頃、友人から夜間中学を勧められ、「できることなら小学校からやり直したい」との思いから入学した。
夜間中学では、勉強以外にもキャンプや修学旅行、球技大会も経験できたといい、その後、定時制高校も無事卒業した新崎さんは、資格や免許を取得できるようになったことで仕事の幅が広がり、「家族を旅行へ連れて行ったり、家を買ったり、人並みの生活ができるようになった」と振り返った。
その上で、「沖縄にも夜間中学があれば自分と同じようにやり直しができます。どうか、再出発できる夜間中学をぜひつくってください」と呼び掛けた。
パネルディスカッションの時間には、那覇市夜間中学検討委員を務める盛口満沖縄大学教授が、「市外在住者も多く、予算的にも(夜間中学設置は)市単独では難しい」とした上で、「県立で設置することが望ましい」との経緯から、提言書提出に至ったと説明。
これについて関本氏は、沖縄は離島も多いことから、「オンラインを含めた、合わせ技の検討も必要だ」と持論を述べた。
年々夜間中学対象者の高齢化が進む中、それらの人々の学びたい思いに応えられるかは、行政の本気度に懸かっている。